僕の中のあいつ 第一部 第一章
 僕があいつと出会ったのは、三年前の冬、チラチラと粉雪が降り始めてきた寒い夜だった。あいつは跨線橋の上で一人で佇んでいたんだ、傘もささずに……。

 それだけだったら、恐らくそのままあいつの後ろを通り過ぎて家に帰っていただろう。

でも僕は、何か引っ掛かる物を感じてあいつの事を暫く見ていたんだ。

 (思い過ごしか……。)

 そう思って家に帰ろうとしてあいつの後ろを通り過ぎて階段を降りようとした時、

 カシャッ

 下手をすると聞き逃しそうな小さな音が聞こえた。僕はその音がした方を振り向くと、あいつが落下防止フェンスをよじ登ろうとしているじゃぁないか!

「やめろぉ!」

 僕は大慌てであいつの元へ走りより足を掴んでフェンスから引きずり降ろした。

「放して下さいっ!」

あいつはまだ声変わりもしていない様な綺麗なソプラノの声で叫んだ。

「ふざけるなっ!そんな所上って落ちたら死んじゃうだろっ!」

「良いんですっ、僕なんか死んじゃっても誰も悲しまないんだからッ!」

あいつはそう言いながら必死に僕から逃げようとしているが、いかんせん僕は18歳、対してあいつはどう見ても中学生にしか見えない。だから力の差ははっきりしている。

「ふざけるな!」

 パンッ

僕の平手打ちがあいつの頬を打った、別にひっぱたくつもりは無かったのだがそれによって多少は落ち着くと思ったのだ。

「ふ・ふぇぇぇぇぇん」

 すると、あいつはいきなり泣き出してしまった。い、いかんこれじゃぁまるでお子さま相手にカツアゲをしている悪い人に見られてしまうっ!

「とりあえず、ここは寒いから一旦家に来な、そこで話をしようよ」

 僕は必死に彼をなだめつつあいつを自分の部屋につれていった。

 部屋につれていって明るい所であいつの顔をよく見てみると、かなり可愛い顔つきをしていた。くりッとした眼、少し小さい口元、筋の通った鼻、少年特有のピチッと張りのある肌。これが可愛く無いと言う人がいたら僕はその人の美的感覚を疑うだろう。それほどにあいつは可愛かった。

「で?どうしてあんな事したの?」

 僕はあいつに温かいココアを入れてやりそう聞いた。最初あいつは黙って何も口を聞かなかった。まぁ、言いたく無いなら言わなくても良い、でも家には連絡を入れておいた方が良いだろう、そこで名前と連絡先だけでも聞いておいた方が良いと、名前と住所だけは聞く事にした。じゃ無いと僕は誘拐犯になってしまう。そう言うと

「優っていいます」

 と一言言い、家には自分で連絡するから電話を貸してくれと言った。それだったらまぁいいだろうと僕は優に電話を貸してやった。

 優は、家に電話をして知り合いのお兄さんの家にいるから安心してくれとだけ言って電話を切ってしまった。その余りの短さに僕は思わず「留守電?」と聞いてしまった。

「はい、家には滅多にいませんから」

 そう言って悲しそうな瞳をこちらに向けた。

何かまずい事聞いちゃったかな?そう思った僕は話題の転換を試みた。

「あ〜、どうする?これから、家に帰るかい?」

「いえ、家には帰りたく無いです。もしお兄さんが良ければ泊めて貰えませんか?」

「いや、僕は別に良いけど、君、学校は?」

 そう言うと、優はクスッと笑って「明日は日曜ですよ」と言った。

「あ、そうか、そうだったな」

「そうですよ」

 そう言って二人は互いに笑い出していた。

暫く他愛の無い話をした後、優が小さく欠伸をしたので僕は

「さぁ、もうねる時間だ、お風呂に入って寝よう。先に入っといで」

 そう言って布団をひき始めた。

 暫くすると全身をほんのり桜色に染めた優が風呂から上がって来た。その時僕はなぜか胸が高鳴っていた。

 (おい、僕はノーマルだぞ、ましてや相手は子供じゃぁないか)

「有難うございます。良いお湯でした」

「あぁ、じゃあ僕も入って来よう」

 かぽーん。ざば〜〜。

「どうしよう、布団一組しか無いぞ、困ったな、僕は別に寝ないと」

 僕は心底困り果てていた。まさか、男、それもまだ子供に劣情を感じようとは思っても見なかったのである。

「さあ、寝ようかって言っても寝巻きが無いか……。じゃ、僕のを貸してあげよう」

「ありがとう!」

 実に屈託なく笑う子である。とてもさっき自殺しようとしていた少年とは思えない。

「わあ、ぶかぶかだぁ」

 そう言って優は、布団の上ではしゃいでいる。

「さ、寝るぞ」

 そう言って、僕は床に毛布をひいて電気を消そうとした。その時優が僕の方を見て、

「一緒に寝てくれないの?お兄ちゃん」

 寂しそうに一言。

 うわぁ、そんな声を出さないでくれ!

「でもせまいだろ?」

 僕は真っ赤になって言い訳をした。よくよく考えればむきになる必要は全く無かったのだが……。

「狭くてもいいよ〜、一緒に寝ようよ〜」

 この一言で、僕は腹を決めた。

「判ったよ、一緒に寝よう。おいで」

「やたっ」

 優は手をたたいて喜んでいる。

「電気を消すよ」

「うん」

 カチッと言う音と共に部屋が暗闇に囲まれる。そして暗くなると一際優の体温が温かく感じられる。その優はと言うと早くも寝息をたて始めている。その寝息を頬に受けながら僕は悶々とした夜を過ごさねばならなかった。



 一夜明けて……。

「お兄ちゃん、雪が積もってるよ。早く起きてよ!」

 僕は優のはしゃぎ声で眼を覚ました。しかし僕が寝たのは結局朝方の事、とてつもなく眠いッ!

「うーん、もう少し寝かせてくれよ……」

 寝ぼけ眼でそう言う僕に、優は容赦の無い一言を言い放つ。

「何言ってんの、もうお昼過ぎだよっ!」

 あー、もうそんな時間か。僕はそう呟くと

「判った、判ったよ。今起きるよ」

 そう言って、布団を剥ぎ取って、立ち上がる。すると、何か妙な視線を感じた、その視線の主は一人しか居ない。

「なんだい?優君」

「優でいいよお兄ちゃん」

「そっか?じゃあ優、改めてなんだい?」

 優の視線を追って見ると、僕の股間に行ってるみたいだ。当然、僕の股間は朝立ちでスエットを押し上げ、見事にテントを張っている。

「お兄ちゃん、何それ?」

 どうやら優は朝立ちと言うものを知らないらしい。どうやって説明すっかな〜?まぁ、こいつももうそろそろこういう事に興味を示すだろうから、とりあえず、正しい知識を教えるかな。

「こいつか、こいつは朝立ちだよ」

「朝立ちって?」

 あ、マジで知らんなこいつ……。

「男はね、大人になるとここが大きくなる事があるんだ。でもって、寝て、起きた時にここに血が集まって大きくなっちゃうんだよ、

それが朝立ちさ」

「ちんちんが大きくなる事を勃起って言うんでしょ」

「ま、ね。何処で聞いたの?」

「この間学校で友だちが話してたよ」

「ふーん、そうか」

 そう言えば、優の年って幾つなんだろ?

「お兄ちゃん、外に出て雪だるま作ろうよ」

 優が急に話題を転換して僕に飛びついて来た。うーん、さすが子供だ、興味はもう外の雪に移っている。

「うーん、じゃあ行くか」

「行こう、行こう!早くしよっ!」

 やっと着替え始めた僕を優がせっつく。

 外に出ると、朝のうちに止んだらしい雪が廻りの景色を白一色に包み込んでいた。雪雲から出番を奪った太陽の光を、雪が反射してとても眩しい。僕は眼を細めその光に対抗する。近くの公園はもう人が来ていてぐちゃぐちゃになってしまっている。

「優、おいで。河原の方に行こう」

 僕らは公園にくらべると少し歩くが敷地が広い河原の方に移動した。

「出来たッ!」

 汗だくになりながらも優は雪だるまを作り上げた。都会で雪だるまを作るとどうしても泥だるまになってしまうのだが、玉石の多い河原で作ったので公園の雪だるまよりはまだましな方だろう。

「お疲れさん。結構でかいの作ったな」

「へへっ、がんばっちゃった」

 優は自慢気に僕に向かって笑うとどうやら隠し持っていたらしい雪玉を僕に投げ付ける。

「やたっ、命中!」

「やったなぁ〜!」

 僕も負けじと優に向かって雪玉を投げ返す。いつの間にか二人っきりの雪合戦になっていた。暫く遊んでいてそろそろ日も暮れるという頃、もう家に帰ろうと言う話をした。優はもっと遊びたいと言ったが、僕はそれを許可しなかった。優は渋々ながらも頷いた。

 帰宅後、二人で夕飯を食べ終えると僕は優に家に戻る様にと話した。その時の優の顔は今でも鮮明に思い出せる。

「……いやだ」

 優はとてつもなく悲しい顔をして、眼に一杯の涙を溜めながら一言だけ呟いた。

「いやだって、言ってもお父さんやお母さんが心配するだろう?」

 僕がそう言うと優はベソをかきながらぽつぽつと話し始めた。

 曰く、両親は二人共忙しく、滅多に家に帰って来ない事、家政婦がいるがあまり仲が良く無い事、等聞いているこっちが悲しくなってくる様な事を話し続けた。

「わかった。優、君は好きな時にここにおいで、いつでも僕が相手をしてあげる。だから今回は家に帰るんだ」

 そう言って、僕は優に家の合鍵を渡した。優は顔をあげ、心底嬉しそうに僕の胸に飛び込んで来た。「お兄ちゃん大好き」と言う言葉と共に。



 そして一ヶ月の月日が流れた。

 優は既に僕の家に入り浸っている。どうやら学校が終わると家に直行しているらしい。

僕が大学から帰ってくると大抵はゲームをやって僕の帰りを待っている。僕が帰ってくるとランドセルからノートを取り出し宿題の解らない所を聞いてくる。(驚いた事に優はまだ小学生だった)そして、次の日学校が無いと必ずと言って良い程、僕の家に泊まって行く。そんな事が当たり前になって来ていた。

 その頃からだ、優が泊まっている日に限って、妙にリアルな淫夢を見始めたのは。確かに優は可愛い、抱き締めてやりたいと思う事もある。だが、その行為はやってはいけない事だ、その思いが高じてそんな夢を見ているのだと思っていた。

 そんなある晩、例の夢を見ていた僕は、その余りのリアルさに、眼を覚ました。多少ぼぉっとしながらも認識出来た事がある。これは、夢じゃ無い!

「あ、お兄ちゃん起きちゃったんだ」

 優はそう言って僕の男性自身をしゃぶるのを止めた。

「優、何をしている?」

 僕は不機嫌な声を出して優を問い詰めた。優は怒られると思ったのか、必死に謝り始めた。

「ごめんなさい。僕、ずっとお兄ちゃんの家にお邪魔しちゃってて申し訳無いなって思ってたんだ。でも、僕お金持って無いし……、だから何かお兄ちゃんの喜ぶ事をしたくって……、そしたら学校で友だちがちんちんを舐められるとすっごい気持ちがいいって言う話をしてたから、だけど、お兄ちゃんが起きてる時には恥ずかしくて言えなくって……、

本当にごめんなさい……」

 優は最後の方は消え入りそうな声を出している。僕はそんな優の姿がたまらなく愛おしく感じられて、思わず優を抱き締めてしまった。

「お兄ちゃん……」

「優、好きだ」

 僕はそう一言言うと、優の唇を奪った。優は黙って僕のされるがままになっている。

 あぁ、そう言えばこれって、僕のファーストキスなんだっけ、まあ、優が相手ならいいや等ともう一人の自分が変に醒めた眼で見ているのを感じながら。

 少し長めのキスを終えると優はトロンとした表情で、「僕もお兄ちゃんの事大好き」なんて言って来てくれた。僕はその言葉にジーンとしながら、もう一回優と唇を重ねつつ布団に倒れ込んだ。


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