僕の中のあいつ 第一部 第五章
「行ってくるよ、優。何してても良いから、ちゃんと留守番しててね」

「はーい、いってらっしゃーい」

 今日から、都合で、暫く休んでいたバイトに復帰だ。あぁ、めんどくさい……。でもバイトしないと生活費が足りないからなぁ。僕は電車で二駅のバイト先にやって着た。

「おはようございまーす」

「おっ、来たねぇ日野君。どうだった?無事進級出来たのか?」

 この店にマスターが出て来て僕に挨拶をしてくれる。この『蘭夢音』(らむね)っていう喫茶店は、決して時給は高くないが、アットホームな雰囲気が好きで、高校の頃からバイトをしてるのだ。

「おかげさまで、何とか進級出来ました。長い間休んじゃってすいませんでした」

「なーんだ。進級しちゃったのかぁ」

「なんか落第して欲しかった様な口振りですねぇ、マスター」

 すると店のカウンターから、ウエイトレスの美紀ちゃんが出て来ておちゃらける。

「そりゃそうよー、マスターってば仁君と明君が進級するかしないかで賭けてたもん。当然マスターは落第の方にね。ねっ、マスター」

「ひっでー、僕が留年すんの期待してたんですかー!」

「いや……その……なんだ……。俺は明に出来るだけ長く居て欲しいだけだよ」

 マスターはモゴモゴと口を濁す。

「だからって……で?幾ら賭けたんです?」

「……一万円」

 よーし、仁のやつが来たら、たかってやろっと。マスターは賭けに負けた悔しさからか、まだブツブツ言っている。そこに、当の仁が出勤して来た。

「うぃーっす。あ、明さん今日からでしたっけ。大学の方はもう良いんですか?」

 仁は、僕の2年後輩だ。高校に居た頃、バイト先を捜していると言っていたので、ここを紹介してやった。結構真面目に働いているのでマスターからの受けも良い。僕は、仁にヘッドロックをかましながら、仁が賭けに勝った事を告げてやる。

「いででででで、痛いっすよ明さん。判った、判りました、ちゃんと奢りますよ!だから離して下さいよー」

 僕は、その言葉を聞き、腕の力を弱める。なんとか逃げおおせた仁は、頭をさすりながら、マスターに掛け金を貰っている。その光景をカウンターの中で、見ていた美紀ちゃんも笑いながら

「あら、仁君。私には奢ってくれないの?明君にだけ奢るなんて不公平よ」

「美紀さん、当事者じゃ無いじゃないっすか!……判りましたよ……奢ればいいんでしょ、奢れば……。あーあ、とんだ災難だなぁ」

「ばーか、人の不幸を賭けにしてるからそんな目に合うんだよっ」

「おい、二人とも、もうすぐランチタイム始めるよ。遊んで無いで仕込みに入ってくれよ。美紀ちゃんは店の方に出ててくれな」

 三人のはーいと言う声が重なる。ここは近くにあまり飲食店が無いので、昼時になると矢鱈に混むのだ。今日のランチメニューはミートソーススパゲティーだ。僕はミートソースを作り始める。マスターのこだわりで出来合いのソースなんかは使わない、全て自分で作るのだ。おかげで僕は料理のレパートリーは豊富だ。仁は、スパゲティーを茹で始める。さっき迄美紀ちゃんがサラダの仕込みをしていてくれたので、その分仕込みは楽な物だった。

 既にお客が入り始めている。僕達は、どんどんと調理の方に追われていく。そして、地獄の3時間が過ぎていった。久しぶりの仕事なので、体のあちこちが苦情の声をあげている。

「明君。仁君と交代でお昼に入っちゃっていいよ」

 カウンターからマスターの声が聞こえる。

「明さん、先に入っちゃっていいっすよ。年寄りは労らないとね」

 ヘへッと、笑いながら仁が、からかって来た。「うるせっ」と仁の頭を拳固で小突く。実際はひと休みしたかったのでとても助かる……。僕は奥の方へ引っ込み、取り合えず昼御飯を食べる。そう言えば優の昼御飯を用意して無かったなぁ。

 僕は暫しの間休息を取り、店に出る。ランチタイムが終わったので、客の方も少なくなっていた。これだったら、僕と、マスターの二人でも店は大丈夫だろう。僕は、仁と美紀ちゃんに休憩を取らせる。マスターはカウンターの中でアイスコーヒーの追加を作り始める。今日はかなり暑かったらしくアイスコーヒーの残りが少なくなったそうだ。

 暫くの間、店の常連さんと軽く会話をしながら、仕事の方を続ける。

 カラン……

「いらっしゃいませ……」

 僕は、その言葉を発した後、凍り付いた。なぜなら、とても知った顔が入って来たのだ。

「清水さん!どうしてこんな所に?」

 彼の方としてもこれには吃驚したらしい。

「あれぇ?あんちゃんじゃ無いか!ここでバイトしてんのか?」

 僕は取り合えず、お冷やを持っていく。そして小声で

「だって、僕の事調査したんじゃ無かったんですか?」

「俺じゃねぇけどな。でも報告書は読んだよ……。あ!そうか、道理で店の名前に見覚えがあると思った!」

 なんか、切れるんだか抜けてるんだか、解らん人だなぁ。

「で、御注文の方はいかが致しますか?」

「俺はモカでいいや。……おぅ、お前らはどうする?何でもいいぞ、好きなもん頼め」

 そう、彼は一人ではなかった。優よりも、一つ二つ上位の、少年を二人連れて来ていた。

 かなり整った顔をしている。美少年の部類に入るだろう。でも惚れた弱味と言う訳ではないが、優の方が可愛いなぁ。それに二人は髪型を除けば瓜二つだ。やっぱり双子なのかなぁ。そんな事を思っていると少年達が注文を言ってきた。

「すいません。私、レモンスカッシュをお願いします」

「おいらは、トマトジュースねっ」

 何か、性格は正反対みたいだなぁ。僕は注文を繰り返す。

「畏まりました。モカがお一つ、レモンスカッシュがお一つ、トマトジュースがお一つ。以上で宜しいですか?」

 清水さんが大きく、頷く。

 僕はカウンターの方へ行き、マスターにオーダーを伝える。

「マスター、5卓、モカワン、レスカワン、トマジューワン、お願いします」

「はいよ。ところで明君。あのプロレスラーみたいな人は知り合いなのかい?」

「えぇ、まぁ……」

 僕は少し口を濁らせる。優の事は知られたくなかった。するとマスターは何を勘違いしたのか、声を潜めて

「あんまり変な連中と付き合うなよ。ヤクザ関係の事なら僕の伯父さんが顔きくから……」

「あはは、違いますよ。あの人はれっきとした堅気ですよ」

 まぁ、あんな厳つい顔してあの体格じゃねぇ、僕だってびびったもん。でもあの人って、優が言った通り善い人だよね。マスターは、あっそ、と気の抜けた顔をして注文をこなしていく。

「はい、明君出来たよ」

「お待たせ致しました」

 僕は注文の物をテーブルに置く、そしてどうぞごゆっくりと言ってその場から立ち去ろうとすると、清水さんが声を掛けて来た。

「あんちゃんよ、今日は何時頃帰るんだい?」

「えーっと、今日は……、7時半頃ですかね……」

「じゃぁよ、9時頃そっちの家に行っても良いかい?」

「あ、良いですよ。9時ですね、じゃ、待ってますんで」

 暫く少年達と、話していた、彼は伝票を持って立ち上がり、勘定を済ませる。そして、ごっそさんと一言残して店を出ていった。二人の少年も後に続く。何なんだろう、家に来るって……。

 その後はさしたる事件も無く無事に仕事が終わる。人は既に帰っている。僕はしまった、逃げられたかと思いつつ、何を奢って貰おうかと美紀ちゃんと話しながら、店を出る。

「ねぇ、明君。さっき、すっごくおっきな人が居たでしょう?マスターが言ってたけど、明君の知り合いなんだって?」

「うん、まあね……」

「どう言う知り合いなの?何か、明君とは全然世界が違うみたいだったけど……」

 まずいなぁ……、あまり突っ込まれたく無い話題をふられたなぁ。

「あのね、前に新宿でチンピラにからまれた時に助けてくれた人なんだ。僕は、咄嗟に嘘をついた。

「ふーん、そうなんだ。そうだよね、明君って何かこずかいくれよぉって言われたら黙って財布丸ごと出しちゃいそうだもんね」

「あ、酷いなぁ、何それー。まるで僕が軟弱者見たいじゃん」

「あれ?違うのぉ?」

 彼女はニヤニヤしながら聞いてくる。ほっ、何とか誤魔化せたか……。

「あ、電車が来た。じゃーねー、明日は?」

「暫く毎日出るよ」

「判った。じゃ、また明日ね」

 そう言って、彼女は手を振って、僕が乗るのとは反対方向の電車に乗り、去って行った。


「ただいまー」

「お帰りー、お兄ちゃん。晩御飯出来てるよぉ」

 僕が家に帰ると、エプロン(いつ買って来たんだ?)を着けた優が、出迎えてくれた。いいなぁ、家に帰ると、誰かが居てお帰りって言ってくれるのは……。

「ヘぇ、今日は何を作ってくれたんだい?」

「えっとね、カレーとね、豚汁!」

 また、奇妙な取り合わせだなぁ。

「よーし、じゃぁ優の作ったカレーを食べるか!」

「うん!」

 優は、僕が帰って来るのを待っていたそうだ。曰く一人で食べても、美味しく無いと言う事だった。それは、事実だ、僕も一人で食べるのが嫌で、仁達とよく外食していた。

 どれどれ……。一口味見をば……あ、結構美味しく出来てるな。もう少し野菜の煮込み方に気を付けておけばもっと美味しくなるな。よし、今度は、豚汁の方を……

 ずずっ……ぷぴっ

「優、カレーの方は美味しいんだけどさ、こっち味見した?」

「え?なんか変だった?」

 そう言って優も豚汁に口をつけ……、黙って流しに行って口をゆすぐ。

「ごめん、お兄ちゃん、あんなにしょっぱくなってるなんて知らなかった。これは捨てて……」

 多分、お味噌を入れた時に良く溶かさなかったのだろう、それが今になって溶け出していたのだと思う。

「いいよ捨てなくても、何とか修正してみるから。さ、優も座って御飯食べようよ」

「出来るの?そんな事」

 優は目を丸くして聞いて来た。別にそんなに難しい事では無い。

「出来るよぉ、だてにバイトで鍛えて無いからね」

「すっごーい!」

 優は尊敬の眼差しを僕に向ける。僕達は、取り合えず、カレーに舌鼓を打ち腹を満たす。

 僕は、優とテレビゲームで対戦をしながら今日のバイト先での事を話した。

「そう言えばさぁ、今日バイト先に清水さんが来てさぁ、吃驚しちゃったよ。偶然だかどうかは知らないけど、あっちも驚いてたから……、そう言えば、男の子を二人連れてたなぁ」

「ヘぇ、その子達ってさぁ、そっくりじゃ無かった?」

「髪型以外はそっくりだったなぁ。優、知ってるの?」

「多分知ってるよ……。あ、しまった!」

 YOU WIN

 会話に夢中になっていた優が操作ミスをして負けてしまう。

「あーあ、負けちゃったよ、お兄ちゃんに負けちゃうなんてなぁ」

 今時のお子さまはこういうゲームが矢鱈と強い。僕は今日初めての勝ちなのだ。

「清水は何か言ってた?」

「うん、今日9時に来るって言ってたな、そう言えばそろそろ来るんじゃないかな?」

 ぴぃんぽぉん

 噂をすれば何とやらだ。僕は玄関に行って鍵を開けて彼を招き入れる。おや、今日、お店に来て居た子たちも来ている。

「おじゃましまーす」

「おじゃましまーす」

 二人の声が見事にはもる。

 三人を居間に通すと、優がゲームを止めて嬉しそうな声を出す。

「わぁ、やっぱり美里と美幸だぁ。どうしたの?」

「清水さんの代わりですよ。優様」

 髪の毛が方にかかる位のセミロングの少年が答える。

「清水のおっちゃんのチームが明日から大統領警護に入っちゃうからね」

 スポーツ刈りの活発そうな方の少年が言葉を続ける。

「そっかぁ、清水の代わりなんだ。清水がいるよりよっぽどいいや!」

「坊、そりゃぁひでぇぞ。幾ら俺がナイロンザイルの神経だからって……」

「あはは、ごめん、ごめん」

「清水さん、何飲みます?」

 僕は、狭い部屋に5人もいるので窮屈そうにしている彼に聞いた。

「お、すまねぇな。じゃぁ、酒って言いたいけど……あっついコーヒー貰えるかい」

「判りました、えっと美幸君と美里君……だっけ?何飲む?」

「あ、おかまいなく……」

「おいらも、コーヒーがいいな!」

 うーん、本当に正反対だなぁ。

「いいよ、遠慮しないで、何飲む?」

「じゃぁ、私もコーヒーお願いします」

「優はどうする?」

「面倒臭いでしょ、僕もコーヒーでいいよ」

 僕は、5人分のコーヒーを作りに台所へ向かう。長い間、喫茶店でバイトなんかしているので、インスタントコーヒーなんて物は飲めなくなってしまった。昔、マスターに貰ったサイフォンを使い、5人分のコーヒーを入れ持って行く。僕が居間に戻ると、優と髪の短い方が対戦格闘ゲームをやっている。

「はい、清水さん」

「わりぃな、あんちゃん」

 彼は軽く手を挙げて、コーヒーを飲む。もう一人の方にもコーヒーを渡し、ゲームに夢中になっている、二人に声をかける。

「優、……と、えっと……み……」

「あの子が、美幸ですよ。私が美里です」

 髪の長い少年が、にっこり笑って答えてくれた。そうか……、僕はまたてっきり反対だと思っていた。

「有難う。優に、美幸君、テーブルの上にコーヒー置いたからね」

 二人は、んーと生返事をするとまたもやゲームの方に意識を集中させてしまった。清水さんも呆れた奴らだなと苦笑している。さすがに同じ位の年代だ。ゲームの方の腕は殆ど互角らしい。いや……美幸君の方が僅かに上のようだ。それにしても清水さんの代わりが二人の少年とは……。僕はふと、疑問を抱きコーヒーに口をつけながら清水さんに質問を飛ばす。

「あのー、清水さん……」

「なんだい?」

「さっき、清水さんの代わりに二人が来たって言いましたよね?」

「おう、言ったなぁ。それがどうかしたか?」

「いや、ふたりともISSの人間なんですか?」

 清水は僕が言いたい事が解った様だ。

「二人が若すぎるってか?確かに書類上は正社員じゃねぇよ。そんな事したら一発で労働基準法違反で摘発されるわなぁ」

「そうでしょうね、で、彼等は一体幾つなんです?」

「そりゃ、本人に聞いた方がはえぇよ、おい教えてやんな……」

 彼に促されて、美里君が答える。

「二人とも13です。でも一応お給料も貰っているんですよ」

「俺が仲介になってな、ISSから一端、俺の給料として振り込まれるんだ、その後俺から二人に手渡してるって訳だ。言っておくが、あんちゃんより稼いでるぞこいつら」

「ヘぇ、一体いくら位あげてるんです?」

「良いんですか?言っちゃって……」

 美里君が清水さんに聞く。彼は良いよと言った。

「あの……、月給で30万程……あ、勿論二人でですけど……」

 げげげっ、そんなに貰ってるのか、良いなぁ……。

「それにな、ちゃんと警護の仕事もしてるんだぜぇ、守るのは大人だけじゃねぇからなぁ。前に俺が居たら子供なんか怯えちまってよぉそれからこいつ等の出番が出来たって訳さ……。こいつらも一人前のトレーニングはしているからなぁ、そこらのチンピラ位じゃ、歯も立たないぜ」

「ヘぇ、強いんだぁ……」

「おう、こいつらの武術の稽古は俺がつけたからな。まだ年令が低いから段位は取れないが、今の時点で剣道、空手、合気道、柔道で……合計6段位あるんじゃねぇかなぁ」

 またまた、げげげっ。滅茶苦茶強いじゃん。

「……へぇ……す……凄いね……」

 思わず顔がひきつる。

「お兄ちゃん、こっち来て。ちょっと交代してよ」

 今迄、ゲームに熱中していた優が、僕の事を呼ぶ。

「え、いいよ。僕は、君等に勝てっこ無いから……」

「じゃぁ、清水とやればいいじゃん」

「坊、俺にそんなちっこいもん操作出来る訳無いでしょうが……」

「やってみないとわかんないよ。ほら一回やってみなよ」

 そう言って、僕と彼に無理矢理コントローラーを渡す。彼もしょうがないと言う顔でゲームを始める。

 一時間後……。家はときならぬゲーム大会になっていた。清水さんがハマってしまったのだ。

「坊。ちったぁ手加減して下さいよ……、勝てやしねぇ」

「やだよ、さっき手加減したら怒ったの誰さ」

「美里!タッチだ!俺じゃ、坊に勝てねぇよ!」

 いつの間にか、タッグ戦になっている。しかし、清水さんがいるおかげで美里君の健闘も空しい。僕は、別のソフトを持って来て、こっちにしようと提案する。それはボードゲームだ、これなら彼でも大丈夫だろう。

 更に二時間後、既に1時に近くなっている。

 優なんか、ゲームをしながらうつらうつらと船を漕いでいる。その様子をみた清水さんは、腕時計を見て、しまったと言う様な顔をする。

「もうこんな時間か!おい、二人とも、帰るぞ!」

「ふぁーい」

 美幸君が、大欠伸をしながら答える。さすがの彼も眠くなったらしい。美里君は以外にもしっかりと起きていた。

「すまねぇな、あんちゃん。こんな遅く迄よ」

「そんな、いいですよ」

「それじゃ、俺は暫く居ねぇから、この二人の事宜しくな!」

 そう言って、三人は帰っていった。優は、既にダウンしていた。優の服を脱がせて布団に寝かせる。僕は部屋の中を片付けた後、布団に入る。


 がばっ!僕が飛び起きると時計は9時を過ぎていた。やばいっ遅刻するっ!僕は、慌てて支度すると、優を寝かせたまま、食卓の上に走り書きでメモと昼御飯代を残し家を出る。

 ふぅ、取り合えず、ギリギリ間に合ったか……。


 今日は、別段仕事中に替わった事も無かったので仕事の話は割愛する。僕が仕事を終え、家に帰ると優の他にあの二人がいた。どうやらゲームをしていたらしい。しかし、きっちりと夕食の用意は出来ていた。今日は二人も手伝ってくれたらしく、色々な物が食卓に並べられていく。四人で、夕食を食べ、またゲームに熱中して……。そんな日が暫くの間続いた。

 今日は待ちに待った、給料日である。僕は仕事が終わった後、マスターから給料を貰う。

さーて、いくら稼いだかなぁ、今月は結構休んでたから少ないんだよなぁ……って、あれ?いつもの月位あるぞ?

「マスターどうしたの?僕、こんなに働いて無いよ」

「あぁ、それかい?明君だってそれで生活してるんだろ?今回は進級祝い込みだよ。それにもう4年も働いてくれてるだろ?ボーナスだよ、ボーナス」

「えぇっ、いいんですか?」

「嫌なら、返してもらうけど……」

 マスターが僕に手をのばす。僕は反射的に給料袋を後ろに隠した。

「有り難くいただきます」

 そう言って、僕は深々と頭を下げた。

「いいなぁ、明さん。マスター俺にもボーナス下さいよー」

「後二年勤めたら考えてやるよ」

 今日は給料日なので仁もいる。と言うより、この間の一件を今日飲みに行く事で話をつけたのだ。

 僕達三人は、駅前の居酒屋で久しぶりに盛り上がり、解散した。仁も僕も少し足下がおぼつかない。美紀ちゃんは、しっかりとした足取りで帰っていった。仁は少し酔いを覚ましてから帰ると言って、ゲームセンターの方へ消えていく。僕も少し酔い覚ましに一駅歩くつもりでぶらぶらと家の方へ歩いていく。

 僕は、ふらふらと歩いていると路地を少し入った所にアダルトショップがあるのを見つけた。別段、欲しい物は無かったのだが、ちょっとからかうつもりで店に入ってみる。

 店の中は薄暗く、なんかすえた臭いがする。客は僕一人しか居ない。店主もどうやら奥の方へ引っ込んでいる様だ。僕は暫く店の中を物色してみる。結構色々置いてあるなぁ。始めて入ってみたが、怪しさ大爆発だ。そのうち、店のおっちゃんが奥の方から出て来た。暇を持て余していたらしく、僕に色々話し掛けてくる。

「どうだい、これなんか?彼女ひぃひぃ言って悦ぶよ」

 ケースの中から出して来たのは、僕の倍もありそうなバイブレーターだった。冗談じゃ無い、こんなの優が壊れちゃうよ。僕が、いやそれはちょっと……と言うと今度はちょっと細めのを出して来た。

「これだったら、初心者でも大丈夫だよ。それにアナルの方でも使えるよ」

 それにしたって、僕のより太いよ。それにも難色を示したら、おっちゃんはもっと細いのを出して来た。

「これはどうだい?これで買わなかったら男じゃ無いよ。安くするから買っちゃいなよ。ローションつけてこれを入れればバッチリだよ?」

 僕は、酔って気が大きくなっていたのだろう、大きめの容器に入ったローションとそのバイブをつい購入してしまった。

「えらいっ、じゃ一万五千円ね。その代わりこれオマケにあげちゃうよ。これを彼女のあそこにつけてみな、もう乱れちゃうよぉ」

 おっちゃんは、けけっと笑うとその薬を袋の中に入れた。

「まいどありぃ」

 その声を後ろに聞きながら、僕は店を出た。何を買ってるんだ僕は……。


「ただいまぁ」

「お帰り。遅いよ、お兄ちゃん。もう美幸も美里も帰っちゃったよ」

 優は少し御機嫌斜めの様だ。僕は素直に謝り、紙袋を箪笥の上に置く。それを見逃す優では無かったらしい。

「お兄ちゃん、何それ?」

「ん……、何でも無いよ」

「じゃ、見てもいい?」

「駄目……」

「何で?何でも無いんなら見てもいいじゃん」

 そう言って僕の隙を見て紙袋を奪い取ってしまう。ガサガサ……優は、紙袋の中身を食卓の上に広げる。

「何これ?」

 優は絶句している。当然の反応だろう。

「いや……。帰りにちょっと寄った店でね……おだてられちゃって……つい買っちゃった」

「お兄ちゃん、馬鹿?」

 あう、優の視線が白いっ

「でもさ、こんなの買って来たって事は、H解禁?」

「ま、もうかさぶたも剥がれたし、もういいかな?」

「じゃぁ、許してあげる」

 そう言って、優は早速僕にキスをしてきた。

「お兄ちゃん、お酒臭いよ」

「さっき迄飲んでたからね」

「もう……、シャワー浴びてきてよ。じゃないとしてあげないよ」

「こらこら、して欲しいのは君の方じゃ無いのか?」

「へヘへ、ばれたか……」

 僕は優のおでこを人指し指でつつくとシャワーを浴びに行く。熱めのシャワーが体に心地よい。丹念に体を洗い、歯も磨く。シャワーから戻ると、優は既に寝室で裸になっていた。その上、さっき買って来た物が枕元に置いてある。

「何だよ、結局興味あるんじゃないか」

 僕はそう言いつつ、優と久しぶりに肌を重ね合わせる。優も僕も、暫くしていなかったので既に大きくなっている。

 僕達はいつもの様にお互いの舌を絡ませ、全身を愛撫する。優の物に触ってみると、既に先端から透明な雫が溢れ出してきている。僕は先端に被っている皮を静かに剥いてやり、その雫を掬い上げ優の口元に持っていく。

 ぴちゃ……ぺちゅ……

 優は差し出された指を、躊躇う事無く口に含む。そして充分湿った指を僕は優の窄まりにゆっくりと挿入し、焦らす様に動かし始めた。中はとても柔らかく温かい。

 僕はさっき買って来たローションを手にとって指に塗りたくる。そして、更に指を増やして優のそこを攻める。優もこの間のでコツを掴んだのか、そんなに抵抗は無い。

 ぐにゅっ……にゅるっ……ちゅぷ

 湿った音が寝室に響く……

 優は、体勢を入れ替え、僕の強張りを口に含み激しく吸い立ててくる。うあっ、何か、この間よりも上手くなってるよ。

「優、どうしたの、凄く上手くなってるじゃないか……」

「ふん……へんひゅふ、ひはほん」

 優は、僕のものから口を離さず喋る。

「練習したって、なにで?」

「はほへ、はひっふへんほはへ……ひゅひへ、へんひゅふ、ひはほ」

 いまいちよく聞き取れない……しかし喋る事によって微妙に歯や舌が当たり妙な刺激が僕を包む。優は僕の先端を舌で突いたかと思うと袋を口に含み舌で転がす、その間は小さな手で僕の物を扱いている。

 じゅぷっ、ちゅぷっ

 優の責めは更に激しくなっていく、僕も負けずに攻めているのだが……。もう駄目だ!暫くしていなかったので我慢の限界が来た。

「優っ……もう出るっ……」

 僕がやっとの事でその言葉を吐くと、優は慌てて僕の物に吸い付いてくる。それと殆ど同時に……

 びゅるっ

 大量の精液を優の顔面にぶちまけてしまった。

「もう……。もう一寸待っててくれたっていいじゃない……」

 優は精液で顔をベタベタにして抗議した。僕はお詫びに自分で出してしまった物を丁寧に舐め取ってやり、口に含んだそれを優の口の中に流し込んでやる。

 それを、嚥下した優は目を潤ませている。さて、僕が回復する迄に一寸いぢめてやろう。僕は取り合えず指の攻めと同時に優の物を口に含んだ。しかし、優も溜まっていたのか、後ろで感じていたのか、すぐに果ててしまう。つまらん……。これはこいつを使うしかないかねぇ。

 僕は、店のおっちゃんに貰った、あの怪しい薬を使ってみる事にした。なになに?指に適量を付け、相手の方に塗り込んで下さい?

 僕は人指し指に少し薬を取り優の中に塗り込んでやる、そして指を動かし始めた。暫くはいつもの反応だった。騙されたかな?そう思い始めた頃優の反応が激変した。

「お兄ちゃん、何したの?お尻が熱いよぉ……なんかじんじんしちゃって、ねぇ……もっと一杯動かしてよぉ」

 おぉ!こりわすごい!僕は優の言う通り指の出し入れを激しくしてやる。しかし優は満足出来ない様だ。

「お兄ちゃん、指じゃやだぁ……お兄ちゃんの入れてよぉ……お願いだからぁ……」

 そう言われても……。僕のはまだ回復していない。僕は指を抜くと優の事を仰向けに寝せ、バイブにローションを塗り付けて入れてやる。

「はひぃっ、あう……」

 少しは良いようだ。僕はバイブのスイッチを入れてやる。……ぃぃぃぃと、モーターが回転する低い音が漏れる。しかし……小さい割りには結構激しい動きするなぁ。

「は……あん、お兄ちゃん……気持ち良いよぉ……」

 優の目はうつろだ……。前の方も今射精したばかりだと言うのに、もうはち切れんばかりに大きくなっている。僕は、優の全身に舌を這わせる。

「ひゃ……ん……あぅ……ふ……い……い」

 優の喘ぎ声を聞いているうちに僕のも復活してきた。それを見た優は僕に本物をくれとせがむ。

「お兄ちゃん……やっぱり……ボク……お兄ちゃんのが良いよぉ……。早く入れてよぉ」

 しかし、凄い乱れ方だなぁ……。おっちゃんの言う事は本当だったか……。僕は優のリクエストに答え、バイブを引き抜くと替わりに充分大きくなった僕の物を突き入れた。

「あぁ……」

 優が歓喜の声をあげる。

「やっぱりお兄ちゃんのが良いよぉ、熱くって、堅くって……あ……」

 そう言って、優は僕の首に腕をまわし抱きついてくる。その上無意識にか、腰が動いている。優の中は指とバイブでかなり熟れたのか、ふにゅふにゅだ。だからと言って、締まりが悪くなっている訳ではない、根元の方できっちりと締め付けてきているのだ。

「ゆ……う……あんまり締めないで……持たない……よ」

「そんな事言ったてぇ……気持ち良いんだもん……」

「あ……出ちゃいそう……」

「待って!ボクももうすぐイっちゃいそう……」

 うう……、我慢、我慢……僕は気を逸らそうと難しい事を考えようとする。あいうえお、かきくけこ、ににんがし、にさんがろく……あぁっ、僕の難しい事って……

「あっ……あっ……イク……イっちゃうよぉ!」

 その声と同時に僕は優の中に注ぎ込む、その後すぐに優も射精する。

 その後、暫く出来なかった欲求不満からか、僕は暫くの間優が快楽を貪るままに付合わされた。


「やばいっ!遅刻する!」

 僕は、慌てて身支度をして家を飛び出す。

 優は、満足そうな顔をして眠っていた。僕は眩しすぎる太陽に向かって痛む腰を押さえ、バイト先に走っていった。



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