僕の中のあいつ 第二部 第一章
 窓の外に今は遠く小さいが堂々とした姿を見せている、日本で一番美しい山……

(あぁ、帰って来たんだなぁ……)

 僕、日野明は今IZUMICの専用機に乗り、二年ぶりに故郷の地を踏もうとしていた。

 今までは点や線でしかなかった地上の道路や建物が見る見る大きくなってくる。

 ガクンッと着陸のショックがあり暫くの後、僕は飛行機から降りて久し振りに東京の空気を大きく吸い込んだ。

「よう!元気そうじゃねぇか!どうだ、やっぱり日本はいいだろう」

 清水さんが正面から軽く手を上げて相変わらずの大声を出しながら歩いて来た。かなり遠くだがISSのロゴが鮮やかなバンが停まっている。

「お久しぶりですね、清水さん。あぁ、そのいかつい顔を見たら、帰って来たんだなぁって実感しましたよ」

 僕は笑いながら、彼と握手を交わした。

「けっ、言ってやがるよ、こいつは……お前も俺にずいぶんとでかい口きける様になったなぁ、え?おい」

 彼はそう言い放つと力を込めて僕の手を握りしめてきた。

「いだいっ!力入れ過ぎですよっ!」

「良いんだよ、口の悪い奴にはな、これ位のことはしてやんねぇとよ」

 そういって、今度はその体勢から、流れる様にヘッドロックをかけてきた。

「わぁっ!ごめんなさい!ごめんなさいっ!僕が悪かったですっ!」

 僕は必死になって謝った。何せ熊のような体格の彼が力を込めているのだ。まるで万力で頭骸骨を締められている様で、もがいても外す事など出来はしない。必死になってもがいているうちに、後ろから笑い声が聞こえてくる。

「もうやめてあげなよ。明兄ぃ死にそうだよ、それに優ちゃんがあっちで怒っちゃってるよ」

 その言葉が効いたのかようやく丸太の様な腕から解放された。僕はまだ痛む頭を振りながら声の主に礼を言う。

「ふぃ〜、助かったよ、美幸ぃ……。いや、マジで痛かったっすよ清水さん!」

「ガハハハ、ちょっとお灸が過ぎたか……悪かったな。何、久しぶりのスキンシップだと思って諦めろ」

 随分と荒いスキンシップだと思ったが、また食らっては堪らないので心の中にしまっておく。やっと痛みの方もひいてきたので、ようやく助け舟を出してくれた美幸の方に視線を向け改めて帰国の挨拶をする。

「ただいま、美幸。元気してたかい?」

 やはり二年前に較べるとかなり成長している。所々にニキビがぽつんと出ているし、精悍さが少し増した様だ。

「やっ、久し振りだねっ、明兄ぃ。帰国早々災難だったね。あははは」

 しゅたっと手をあげて、こればかりは変わらない口調で話す。

「あぁ、かなりきつい出迎えだったけど、帰って来たんだなぁって実感したよ」

 苦笑して、清水さんの方を見る。すると彼はにたりと笑って指をポキポキ鳴らしながらこちらに近付く。

「もう一丁やってほしいか?んー?」

「いっ、いや……もう勘弁して下さいよ!本当にっ!」

 僕はふるふると首を振り、後ずさる。本当にさっきの再現はごめんだ。

「冗談だよ。さぁ、もうそろそろ行くぞ」

 そう言って、僕の荷物をひょいっと担ぐとすたすたと歩いていってしまう。結構重いんだけどなぁそれ……しかも、僕が想像していた方向と違う方に向かっている。

「あれ?清水さん。あの車で行くんじゃないんですか?」

 そう問いかけると、彼は歩きながら振り向きもせずに答える。

「俺らはこれから仕事があるんだよ。だからお前は坊と一緒に帰ってもらうぜ」

 その言葉を聞いていた美幸が不満の声をあげる。

「え!チーフ。俺らってことはおいらもなのっ?」

「ったりめぇだ!おめぇだけじゃねぇ!美里もだよ!解ったらとっとと車に行ってろぃ!」

 彼の一喝がとぶ。美幸は首をすくめて、車の方へ逃げて行くが一旦止まって「明兄ぃ!後でねぇ!」と手を振る。そこに再び清水さんの一喝が……。美幸はまさにピューッと言う表現が似合う程の早さでバンへ戻って行った。

 空港のロビーを抜け、暫く歩くと前方に黒塗りのリムジンが停まっているのが確認できた。

(そうか……優も迎えに来てくれてたんだな……。でもなんで美幸とかと一緒に来てくれなかったんだろ?)

 僕がそう思っているとリムジンから運転手が降りて後部座席のドアを開ける。僕は優が出てくるとばかり思ったのだが、そこから出て来たのは随分と髪の長くなった美里だった。

「お久しぶりです。明さん」

 そう言って僕にペコリとおじぎをする。

 美里は、先ほどの美幸の双児の兄である。美幸は良く言えば活発でおおらかな(悪く言えば腕白で大雑把)方なのだが、兄の美里は、その正反対だ。顔つきは双児なだけあって瓜二つだが、その性格の違いか、かなり印象が違う。

 どう言うケアをしているのか、顔にはニキビの一つもなく、色白で整った顔はともすれは十分女の子でも通りそうだ。

「ただいま、美里。随分髪長くなったんだなぁ。てっきり女の子が降りて来たのかと思ったよ」

 そう言うと彼は顔を赤くしながら

「もう……明さん。変な事言わないで下さいよ。せっかく久し振りに逢ったと思ったらそれですか?あんまりですよ」

「いやぁ、ごめんごめん、悪かったよ。……ところで優は?いるんだろ?」

「ええ、いますよ。でも……」

 そこへ荷物を積み込んだ清水さんが割り込んで来た。

「せっかくの所だがな、もう時間がねぇんだわ。わりぃが俺らは行くぜ。おい、美里!」

 彼が顎でバンのある方向をさす。

「判りました。じゃ、また後でお会いしましょうね。明さん」

 清水さんは、もうすたすたと歩き始めている。美里はその後について行こうとして、一旦こちらに戻って来て僕の耳元で囁く。

「あのね、優様なんですけど、明さんに逢うのが恥ずかしいんですって。可愛いですよね、じゃ」

 そう言い様、美里は僕の頬に軽くキスをしてタタタッと去って行った。

(あいつ、あんなに大胆だったっけ?)

 僕はそう思いつつ頬に手をあてる。そこにはまだ美里の男の子の唇とは思えない様な柔らかい感触が残っていた。

 暫くぼーっとしていると、後ろの方からいつの間に近寄ったのか運転手が声をかけて来た。

「失礼致します。そろそろ出発致したいのですがよろしゅうございますか?」

「え?あ……あぁ、すいません。今乗りますよ」

(とは言った物の、何か美里の言葉を聞いたらこっちまで緊張してきちゃったよ、どうしよう……。しかし、車に乗り込まないと話が進まないしなぁ。)

 僕はドアのそばに生真面目に立っている運転手に軽く頭を下げて、意識すればする程、速まる鼓動を押さえながら車に乗り込んだ。 中には豪奢な皮張りのシートと、小振りではあるが趣味の良いテーブルが据え付けられている。そして優はその奥に座っていた。

「優、今帰って来たよ、ただいま」

 僕は、少しドギマギとした口調で優に声をかけた。あえてこちらを見ない様にしていたのか、あさっての方を見ていた優は、ぴくっと体を震わせ、ゆっくりとこちらに体を向ける。そして……

「あ、お帰りなさい……明さん。お元気そうでよかった」

 優の返事は凄くよそよそしい物だったのだ。

そのうえ、彼は運転手に話し掛けたままこちらを見ようともしなかった。

 なぜ無視する?なぜ、他人に対するような返事なんだ?僕が想像していた再会とは大幅に違っていた。

 僕は取りあえず、優の向いに腰掛ける。しかし今ので会話するきっかけを完全に失ってしまっていた。車が滑るように動き始めたのが流れ始めた風景で判った。僕は優の顔をちらりと見る。すると目線が合ってしまったのがいけない事だったかの様に優の視線があからさまに外れる。そんな事を何度か繰り替えしているうちになんだか僕は悲しくなってきてしまう。

「……あのさ……」

 僕は思いきって、優に話し掛けた。

「ごめんなさい、少し待ってもらえますか?」

 優の返事は至極素っ気無い物だった。

(に年も逢ってないから嫌われたかな?こりゃ……でも、美里は逢うのが恥ずかしいって言ってたしなー困ったな、これじゃ会話は続かないよ……。)

 僕が変な思考の迷路にはまっているうちに前部を遮断する様にガラス板みたいな物がせりあがってきた。完全に後部座席を隔離するとさらにカーテンが閉まる。

(何だよ一体……)

 僕が呆気に取られていると、優がフゥッと息を吐き出した。

「あらためてお帰りなさい、明お兄ちゃん。二年間の留学生活お疲れ様」

 そう言って、優は会心の笑みを浮かべた。

僕がその変わり様に呆然としていると、優は僕の隣に移動してきた。

「ごめんね、何かお兄ちゃん前よりもずーっと格好よくなっちゃってたからさ、なんか恥ずかしくってさ、それに鹿嶋がいたからあんまり変な対応も出来なかったんだ。本当にごめんなさい」

 そう言って、優はペコンと頭を下げた。どうやら、鹿嶋と言うのは運転手の事らしい。

「いいよ、気にしないでも」

 僕はそう言って、優の黒く艶やかな髪を撫でる。

「優も大分大きくなったよな。でも声変わりしたのか?何か全然変わった様に思えないんだけどな」

「ひどいな、これでもちゃんと声変わりしたんだよ、あそこだって生えてきたんだからねっ!」

 そう言って、僕の脇腹をつねってきた。

「判ったよ、悪かったってば!ごめんよ」

「ダメ、許したげないもん」

「どうしたら許してくれるんだよ」

「決まってるでしょ。ただいまの……」

 そう言いつつ、優は僕の膝の上にまたがると、両腕を絡めてきた。瞳を閉じた優の顔が迫ってくる。

「ただいま、優。本当に逢いたかった」

 僕らはごく自然に唇をあわせる。お互いの感触を確かめる様に暫くの間そのまま抱き合ったままでいる。そして、僕は二年前の事を思い返していた。



 僕はその日泉寺家によばれていた。僕の怪我がすっかりよくなってから丁度一ヶ月程した頃だった。そろそろ大学に復学しようと思っていたところに重吉翁から直々に電話がかかってきたのだ。ただ一言『今日、時間があるのならば家に来なさい。』と。

 IZUMIC会長からの電話だ、おろそかにする事は出来ない。僕は身なりを整えて、泉寺家へ行った。そして、通されたのは重吉翁の私室だった。そこは純和風の部屋で、真ん中に立派な黒檀のテーブルが置かれている。その向こうに翁はきちんと正座して座している。

「よく来てくれたな、明君。ま、座りたまえ」

 促されて、僕は翁の正面にやはり正座をして座る。

「いえ、どうせ家でゴロゴロしていただけですので。それにたまに動かないと体が鈍ってしまいますし」

「それなら良いのだがね。実はの、君に今日、ここに来てもらったのは2、3聞きたい事があってな。まぁ、答えたくない事には答えんで良いからしばらく、このじじいにつきあってくれ」

 そう言って翁はかっかっかとどこぞの時代劇に出て来る様な声を出して笑う。僕が気の抜けた声で了承すると暫くの間、学歴や、生活面等の質問が世間話でもしているかの感覚でこなされていった。そして遂に、と言うか確実に聞かれると思っていた言葉が翁の口から放たれた。

「君は、前に彼奴の事が好きだと言っておったが……、……抱いた事はあるのかね?」

 僕が答えに詰まってしどろもどろしているのを見た翁は小さく溜息をついた。

「もう良い、その態度で判ったわ。抱いたんじゃな?」

「……申し訳ありません……」

 僕はこの後に来る罵声を予想して、体を精一杯縮こませながら、蚊の泣く様な声で謝った。しかしそれは全くの杞憂であった事を次の瞬間に知った。

「わしは怒りゃせんよ。衆道を否定するつもりは無いんでな。それに彼奴は人見知りがえらく激しくてな、滅多な事で他人の家に入り浸る様な真似なんぞせんわい。余程君の事が好きなんじゃろ。それにどうせ彼奴の方からせまって行ったんじゃないのかね?どうだ、彼奴を抱いた感想は。良かったか?」

 翁は、からかうような口調で僕の方に身を乗り出す。恥ずかしさの余り、耳まで赤くなった僕の様子を見て翁はまたもや笑い出す。

「うぶだの、軽い冗談じゃよ」

(それこそ冗談じゃない……)心の中で軽く突っ込みを入れる。

「さて、ここからが本題なのだが……ここに白紙の小切手がある。これに好きな金額を入れてくれたまえ、その代わり今後一切彼奴と接触する事を禁じる、と言うのが条件だが……」

 そう言って僕の前に小切手とペンを差し出す。翁は今まで見せていた一切の表情を消し去り僕の顔を凝視している。

 ……ビリッ

 僕はその目を見ながら少しも躊躇わずにその忌わしい紙切れを破きさり、翁の方へ突き返した。

 今さら恐い物など無いし、優との仲を引き裂かれる位なら死んだ方がましだと言う気持ちが僕の中で破裂寸前の風船の様に張り詰めていたから。

「そうか、要らぬか……。それでは君の口を封じさせて貰うが良いな?」

 僕はやはりそうきますかと思いながら挑戦的な目つきでただコクリとうなづいた。

 一方、翁は目を瞑って腕を組んだまま黙っている。

 暫くの静寂の後……

「その心意気、確かに受け取った。明君、君、我が社に来なさい」

「へ?我が社って……どう言う事ですか?」

 我ながら間抜けな返事をしてしまった。だって、てっきり殺されると思ってたんだから……、これ位の地位を持っている人なら人一人を行方知れずにする事なんて雑作も無い事だろう。それがうちに来いって……。

「決まっているだろう、我が社と言ったらIZUMICだよ。それも、グループの中の一端では無く、中枢部に入ってもらうぞ。良いかね?」

 IZUMICの中枢部って……ええっ!滅茶苦茶エリートコースじゃ無いか、噂で六大学の中でも主席クラスじゃ無いと入れないって聞いたぞ。それでも、年に一人位しか受からないって……。

「あの……いいも何も、僕なんかじゃまるっきり役不足なんじゃぁ……」

 どうやら僕の言いたい事は先刻承知らしい。

「なぜ君がうちの中枢部に入れるのか?であろう?」

「はい、その理由が聞きたいです。まさかこの間の一件のせいでと言うなら、僕は慎んで辞退致します」

 そりゃ、僕だって、棚からぼた餅のような良い話を断りたくは無い。でも実力で入れないところに行ったって先は知れているし、第一、僕にだってプライドって物がある。

「君ならそう言うと思った。確かに先日の件があったのは事実ではある、しかしそれだけで儂は中枢部になんぞ入れんよ。どちらかと言うなら孫の為だ。将来彼奴もうちのグループのトップに立つ様になる。その時に一人でも信頼のおける人間にそばに居てほしいのだ。そして、今目の前に居る人間、つまり君こそがその人に適していると判断したのだよ。どうかね、納得いったかね?」

 僕の事をそこまでかってくれた翁に感謝した。

「ただし、今のままでは君は確かに学力他、足り無い物が山ほどある。だから、君にはアメリカに留学してもらう、二年程な。そこで儂が出す課題を全て身につけて来い。それが出来なければ失格じゃ。系列会社の一般社員として雇う事となる。まぁそこそこに出世出来るような学力はついているだろうからな。どうだ、やってみるか?」

「……少し、考えさせて頂けますか?」

 僕は、すぐには返事を出す事が出来なかった。

「良かろう。人生の一大決心と言っても過言では無いからな。ゆっくり考えると良い。一週間後、またここに来なさい」

 それから二ヶ月後、僕はアメリカの地を踏んでいた。



「……ぃちゃん。お兄ちゃんてば!」

 ふと、我に帰ると僕の顔を覗き込んでいる優の顔があった。

「何ぼおっとしてたの?せっかく逢えたって言うのにさ」

「あ、ごめんよ。二年前の事思い出しててさ、今思うと永かったのか短かったのかわかんないな」

「何言ってるの……ボクにはとっても……永くて永くて……」

 優は、瞳一杯に涙を溜めて、ヒックヒックとしゃくりあげている。

「そうだったな、やる事だらけだった僕とは違って優は待つだけだったもんな。ごめんな、優」

 僕は優を精一杯抱き締めてやる。

「ううん、いいの……今ここにちゃんとお兄ちゃんが居てくれるから……。でも、もう離れ離れになるのは嫌だよ」

 うっ、やっぱり可愛いなぁ……少しでも気を緩めると顔がデレッと崩れそうになるのを押さえながら真面目な表情をつくる。

「約束するよ、もう離さないからな」

 優は無言でコクコクと頷いている。

 暫く抱き締めていると不意に優の胸元が小刻みに振動している。優も気が付いたらしく、慌てて体をはなす。どうやら優の持っていた携帯電話が鳴ったらしい。

「お祖父様からだ……。はい、優です。……ええ、お着きになりました。今そちらへ向かっている最中ですが。……はい、今替わります」

 優は一旦携帯を離すと僕に向かって差し出す。

「お祖父様が替われって」

 僕は携帯を受け取る。

「はい、お電話替わりました、日野です」

『おお、無事に着いた様だの、明君。』

 相変わらずの達者な声である。

『実はな、これから君に来て貰ってあっちでの報告を聞こうと思ったんじゃがな。急用が出来てしまってな、申し訳ないが今日は家の方に戻ってくれたまえ。明後日、本社の方に来て貰って報告してもらうでな。本当に申し訳ない。明後日、君の元気な顔を見るのを楽しみにしているよ。では、もう一度彼奴に替わってくれまいか。』

 僕は、携帯を本来の持ち主に手渡す。

「はい、判りました。……ええっ!いいの!やたっ!っとごめんなさい……。はい……はい……それでは、お祖父様失礼します」

 優は携帯を切ると同時に僕の首に腕をまわし、僕に報告をする。

「あのね、あのね!今日は、お兄ちゃんの家に泊まって行ってもいいって!今日はゆっくりお話が出来るね!」

 本当に嬉しそうに語りかける優を見ているとこちらまでうかれてくるから不思議だ。優は運転手に早速行き先の変更を告げている。車はゆったりと進路を変えて走り続ける。しばらくすると多少変わってはいるが、見覚えのある懐かしい町並みが現れた。そして、久し振りの自分のアパートの前で停車する。

(ああ、本当に帰って来たんだな。きっと埃とか凄いんだろうなー、まずは大掃除からかな……)

 僕は荷物を降ろしている運転手に礼を述べると一足先に、部屋の前に行きカギを開ける。実際、泉寺家には感謝せねばなるまい。日本に戻って来た時に部屋をさがすのは大変だろうからと、二年もの間家賃を払い続けてくれていたのだから。

 キィッ……

 ここに来た時から軋んでいた扉を開け、部屋の中に入り……僕は一旦玄関の表札を確認した。

(何か違うな……でも僕の部屋だし、第一違ったらこのカギで開く筈ないよな……)

 暫く考えて、僕はその違和感の正体をさとった。

(そうか、空気が濁ってないんだ。それに埃が全然無いや。)

「どしたの?こんな所でたちんぼしちゃってさ。早く入ってよ」

 いつの間にか後ろに来ていた優が僕の背中を押す。

「……いや、一瞬ここ自分の部屋だったっけなって思っちゃってね」

「正真正銘お兄ちゃんの部屋だよ。お兄ちゃんがいつ帰って来ても良いように僕が掃除してたんだ。それと時々ここで遊んでたしね」

 自分が優に合鍵を渡していた事実をすっかり忘れていた。

「そっか……ありがと、優」

 僕は荷物を置き、居間で暫くの間くつろいぐ。その間も優はせっせと僕の為にお茶を入れたりしている。最初は自分でやろうとしていたのだが、優に座ってていいからと言われたのだ。実際多少疲れていたので僕は優の好意に甘える事にした。

 その居心地の良さと、帰って来た安堵で僕はいつの間にかすぅっと寝入ってしまっていた。



 僕はその鼻孔をくすぐる良い香りに猛烈に空腹感を覚えて眠りの淵から覚醒した。まだけだるい体を起こして卓袱台の上を見るとこれでもか!とばかりに所狭しと料理が並んでいた。

「あ、やっとおきたんだ……御飯食べよ。お兄ちゃん」

 優が、エプロンをはずしながら僕の向いに座る。ふと、外を見ると既に陽は沈み、代わりに満月が優しく、しかし冷たい光を放っている。

「あ……ごめん、なんか寝ちゃってたみたいだな。これ、優が一人で作ったのかい?」

「そうだよ、昔より料理の腕はあがったからね」

「へえ、楽しみだな」

 そう言って僕は料理を口に運ぶ。ちなみに今日のメニューは、ひじきの煮物、大根の味噌汁、肉じゃが、ほうれん草のごま和え、塩鮭ってな感じだ。あっちでは決してと言う訳では無いがなかなか口に入らなかった。実に嬉しい御飯である。

「んまい!旨いよ、優」

 久し振りの日本食と言うのを差し引いても優の作った料理は美味しかった。僕はまるで欠食児童のごとくお替わりをしまくった。優はそれを見て破顔している。

「ふぃー、食った食ったー」

 もう食えん!と腹が文句をたれているのを手でさすってなだめながら、座椅子にもたれ掛かる。優はその様子を見ながら、卓袱台の上を片付けにはいる。

「あ、そうだ、お風呂も沸いてるよ。入りなよ」

 とことん抜け目の無い子だ。僕は少し重くなった体を引きずって風呂に入る。

(やっぱり風呂ってのはこうじゃ無くっちゃね〜)

 そんな事を思いながら湯槽にゆったりと体を沈めていると表から優の声が聞こえる。

「お兄ちゃん湯加減はどぉ?」

「あぁ、ちょうどいいよ。優も入れよ」

「……うん。じゃぁ背中流してあげる」

 少しためらいの間があった後、優は腰にタオルを巻いて風呂場に入って来た。僕は思わず優の裸に見とれてしまう。

「あ……あのさ、そんなにじろじろ見ないでよ」

 そんな事言ったって見えてしまうのは仕方が無い。さすがにこの年代は成長が激しいだけの事はある。最後にこの子を抱いた時に較べるとかなり身体つきが変わった。あの頃の幼さは完全に無くなり、スポーツでもやっているのか、かなり引き締まった体型になっている。しかし、胸に斜めに走っているひきつれた様な傷跡は今も残ってしまっている。そう、あの思い出したくも無いあの事件の時の傷だ。あの時の事は今でも夢に出て来る。

「背中流してあげるよ、お兄ちゃん」

 優の声に一瞬自分の世界に入っていた僕は現実に引き戻される。

「あ、じゃぁ頼むよ」

 そういって僕は湯槽からあがる。

「久し振りだねぇ、こうやって一緒のお風呂に入るのって」

 僕の背中を石鹸だらけのタオルでコシコシと擦りながら優は感慨深げに話す。

 やがて優は背中を洗い終わり、僕の前に移動して今度は前を洗う。

「何か、随分と引き締まったよな、何か運動始めたのかい?」

「うん、学校で剣道部に入ったんだ。今は副主将になったんだよ!そうだ、今度学校対抗の試合があるんだ。お兄ちゃん応援に来てよ」

 優は自慢げな声で話してくれた。そうか、結構がんばっているんだな。優の袴姿かぁ、これは一見の価値有りだな、絶対行こっと。

「オーケー優、絶対行くよ。ところでさ、何で前をタオルなんかで隠しているんだい?今迄そんな事無かったじゃないか」

 僕はさっきから気になっていた事を聞いた。

「えへ、やっぱり何か恥ずかしいんだよね」

 優はそう言って、てへへと笑っている。僕は一瞬の隙を突いて腰を覆っているそれをさっと外してしまう。

「あっ!」

 優は慌てて石鹸だらけの手でその部分を隠そうとする。しかし僕だってその位は予想済みだ、僕はその手を取り、強引に外してしまう。優もそうはさせじと抵抗するが、所詮鍛えたって言っても、こっちだってある程度の鍛練はしていたのだ。結局優の大事な部分は僕の目の前であらわになる、僕は目の前にあるその部分を見て少し可笑しくなった。

「何だ、お前生えてるって言ったよな、生えて無いじゃんか」

「はっ、生えてるもん!ほら!ちゃんとここに!」

 優は顔を真っ赤にしてそれの付け根を指差す。あ、ほんとだ、産毛みたいなのが少しだけはえてら。でも、むきになって主張する優も可愛いなあ。僕はその愛おしい子の物を手に取り弄びはじめる。

「ふーん……少しは大きくなったみたいだな、先っぽがこんにちわするようになったんだ」

 やはり、あの頃とは違って少し包皮が剥けて来て鈴口が顔を出している。それは相変わらず綺麗なピンク色をしていた。

「もぉっ!お兄ちゃんの意地悪っ」

 優は僕の頬をごく軽く叩く、その間も僕の手は休み無く優の大事な所を揉みしだいている。そのうちに相変わらず敏感なそこが反応し始め、むくむくと頭をもたげて来た。大きくなったそれは完全には剥けてはいないが、亀頭の半分以上を露出させている。

 チロッ……

 僕は、優のそれを口に含んでやる。するといとも簡単に残りの包皮が剥ける。

「あっ……」

 優は蚊の泣くような声を出した。僕は一旦口を離して僕の唾液でヌラヌラと光っているその屹立した物を手で擦ってやる。

「……お兄ちゃん……気持ちいいよぅ……」

 優の膝がカクカク震えているのが判る、このまま続けていたらきっと足に力が入らなくなってしまうだろう。僕はすっと立ち上がるとバスタブに腰掛け、優の事を背後から抱き寄せてやる。膝の上に腰掛ける形になった優は僕に完全に体を預けている。

 僕は後ろから右手を廻し優のそこを弄びつつ左手は優の乳首をくすぐりながら首筋に舌を這わせる。

「優、可愛いよ……。敏感なのは相変わらずなんだな。もう乳首がピンピンだぞ……」

「……恥ずかしいよぉ、変な事言わないでよぉ……」

 上気した声を出している優は、お返しとばかりに既に大きくなっている僕の物を弄り始める。しかし僕が後ろから手を廻しているせいで動きが少しぎこちない。

 ぴちゅ……くちゅ……

 僕の方に顔を向けた優と僕は昼間には出来なかった濃厚なキスを交わす、お互いの存在を確かめあう様に舌を絡めあう。時には相手の舌を強く吸い、また歯の裏に舌を這わせ……、僕達は暫くの間無言での意思疎通をはかった。すると頬のあたりに温かい物がつたってきた。見ると優はポロポロと涙を流している。

「どうしたんだ?優……」

「……お兄ちゃん、好き。逢いたかった……。こうして抱かれたかった……」

「……優……」

 その姿を見て僕は胸が締め付けられた。

(よっぽど寂しい思いをさせちゃったんだな……)

「大丈夫だよ。もうどこかに行くって事は無いと思う、それにもしもそんな事言われたら爺さんに優も連れて行くって言ってやる。だからもう泣くなよ。今日は思いっきり愛してやるからさ。な?」

 優はくすんくすん言いながら頷く。僕は優の頬につたわる涙をなめ取りながら今度は優の窄まりの方を優しく愛撫する。

「ひっ……ん……」

 そこは相変わらず柔らかい、最初は中指で入り口の辺りをゆっくりと嬲ってやる。少しの抵抗の後僕の中指はすんなりと優の内部に侵入する。きゅっきゅと指を締め付けてくる優のそこをよく揉みほぐしながら二本目の指も挿入する。

「あんっ……そこ……感じるのぉ、いいっ!」

 優の身体が小刻みに震えている。僕は優の事を一旦おろし、バスタブの縁に手をつかせ、後背位の姿勢を取らせる。

(何かローションの代わりになる物……)

 僕は手近にあったボディーソープを手に取り、優の窄まりに塗り付ける。

「優、挿入れるよ、いいかい?」

「うん、来て……お兄ちゃん……」

 その言葉を確認してから僕は自分の強張りを優の中にゆっくりと挿入する。

「ああっ……お兄ちゃんが入って来るよぉっ……」

 優は上体を仰け反らせながら歓喜の声をあげた。久し振りの優の中は温かく僕の物を包み込みながらもきゅうっと締め付けて来る。僕はゆっくりと気を使いながら腰を前後に動かし始める。

 あっあっ……すご……いぃ……

 しばらくすると、優の腰も動き始める。僕は優の上に覆いかぶさるような形で、優の乳首と強張りを攻め始めた。

 ひぁ……そんな……やぁっ……そこはだ……めぇ……

 優のそこは手の中でひくひくと脈打っている、ともすると身体ごと崩れ落ちそうになる優の事を抱きかかえてやり、ひんやりとしている床の上に座って、座位の形を取ってやる。

「あぁっ、お兄ちゃんのが奥まで入ってくるよぅっ」

 優が再び切なげな声をあげる。

(そろそろかな……)

 優の限界が迫って来そうなのを感じ僕は少し激しく腰を突き上げる。

 ああぁっ……いっちゃうよぉっ……。

 僕を受け入れている窄まりがキュウッと締まると同時に優のそこがヒクンッと大きく動き……

 ああぁぁぁっ!

 優は絶叫と共に絶頂に達する。そして僕もほぼ同時に優の中に白濁を流し込む。



「良かったよ、優」

 僕は優の頬に接吻しながら話しかける。力が抜けてクタッとなっている優は大きく息を吸い込んだ後、にっこりと笑った。

 僕らは汗まみれになってしまった身体をもう一度洗い直し、少し涼んだ後、朝までおたがいを愛しあったのだった。



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