僕の中のあいつ 第二部 第七章
「明兄ぃ!」

 僕が部屋でぼおっとしていると、いきなり美幸が目の前にやって来た。

「わぁっ!な、なんだよ、びっくりするじゃないか」

 本当に何も考えずにいたものだから、これにはとてもびっくりしたのだ。

「あはははは、悪い悪い。あのさ、今度のGW暇?暇?暇だね、よし決定」

 美幸は僕の発言を待たずに人の事を暇だと決めつける。

「ちょっと待てぃ。お前はいきなり人の事暇人呼ばわりしやがって」

「えぇ!暇じゃないの?」

「暇だよ……悪かったな……」

 なーんだと言わんばかりに、しらっとした目線をこちらに向ける美幸。わ、悪かったな、どうせ暇だよ。

「そこで暇な兄ぃに御提案!」

 人指し指をビッとたててウィンクをする。

「なんだよ……」

 さっきから美幸に押されっぱなしである。反撃したい所だがその真意が掴めない為どうしようもない。

「キャンプ行かない?」

「キャンプ〜?」

「そそ、ISSの所有地に山小屋があるんだ、そこで一週間。どぉ?」

「キャンプかぁ……いいかもな〜」

「よし、いいって言ったね?言ったね?参加決定〜!ここにサインして。そうそう……んじゃ、またねっ!」

 そう言って美幸はさっさと帰ってしまった。一体なんなんだ?この時勢いに押し切られずに考えれば良かったんだよな……ISS所有の山小屋って言葉に……。

「……騙された……?」

 僕は会社で渡されたチケットにあった通りに電車を乗り継ぎ、指定された駅に着く。そして呆然とした。

 目的地は……はっきり言って田舎だった。目の前には一件の雑貨屋と交番があるのみ。

 その前にISSのロゴが入ったバンが停まっていた。僕はそのバンの前に行く。そこにはやっぱり清水さんの姿があった。他には誰もいる様子がない。

「清水さんおはようございます。あの……清水さんだけなんですか?」

「おう坊主来たな。よし、乗れや。説明は移動しながらしてやるよ」

 僕は助手席に座る。それを確認した清水さんはゆっくりと車を発進させた。

「あの、清水さん、キャンプって言われたんですけど、誰も来てないし、どう言う事なんですか?他にも誰か来るんですか?」

 矢継早に質問する僕を制しながら、清水さんはタバコに火をつける。紫煙を深く吸い込んだ後清水さんはこの中身を話してくれた。

「坊主、いや日野 明。今日これからお前はISSの名物を経験してもらう。面子はお前と坊、美里、美幸、後、松岡君の以上5人だ」

 名物って何だ……?

「あの、それって……」

「お前達にやってもらうのはな、生存訓練だよ。美幸から聞いてねぇのか?」

「聞いてないですよ!」

「そりゃ災難だったな、だがサインしたからには参加してもらうぜ、それがだまし討ちでもな。こりゃ、遊びじゃねぇお互いの信頼がないと生き残れない。一応雨風を防ぐ場所は提供してやるがそれだけだ。食料、寝具、その他生活に便利な物は全て没収する。先に向かっている坊たちも既に相模に荷物を没収されているんじゃねぇかな?一応簡易無線機は渡すけどな、緊急事態以外は使うんじゃねぇぞ」

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!何ですか、それは!僕はまだあっちで訓練したけど、優や健太じゃまだ無理ですよ!」

「美里と美幸がいるじゃねぇか。あいつ等はお前よりよっぽどこの訓練に馴れてるぜ」

「でも!」

「デモもストライキもねぇんだよ!おめぇ美幸に参加するって言ったんだろうがよ」

 やられた!だから美幸はさっさと逃げる様に出て言ったんだ。

 2時間も揺られただろうか、辺りに人気は全然無くなり鬱蒼とした木々があるだけだ。そこでバンは一旦停車をする。前にはやはりISSのロゴが入ったジープが停めてあり、そこには相模さんが立っていた。

「やぁ明君、やっと着いたんだね」

「あの、優達は?」

「もう上にいるよ。ここからはこの車じゃないと行けないからね、乗り換えよう。後一時間もすれば目的地さ」

「え!まだあるんですか!」

 僕は思わずくらっとしてしまった。

「こんな近くじゃとてもじゃねぇけど訓練にならねぇからな。ほれ行くぞ坊主」

 仕方ない、僕は不承不承車に乗り込んだ。このまま乗らなければ歩いて行きそうな勢いだったから。

 あぁ、鳶が鳴いてる……僕は道無き道を進むジープに揺られながら現実逃避に走っていた。しかしそれも長くは続かない。

「着いたよ、明君」

 相模さんの優しそうな声で僕は現実に引き戻された。

 目の前には炭焼き小屋みたいに小さい掘っ建て小屋がある。そして4人がそこから出て来た。

「お兄ちゃん、やっと来たね」

「明兄ぃ、お疲れさま〜。疲れたっしょ」

 美幸はのほほんと僕に向かって挨拶して来た。

「美幸〜!サバイバルなんて聞いてないぞ僕は!」

「だって、そんな馬鹿正直に言ったら明兄ぃ来ないもん」

「うるせぇぞ!ガキ共!ピーチクパーチクさえずってる暇あったらさっさと食料でも探して来いっ!」

 轟雷の様な清水さんの一喝に皆ビクゥッと身体を竦ませる。

「おら!坊主もさっさとこっちへ来い!いいか!これから一週間!お前等はここで暮らす!食料は各自で探す事!ここらの地理は美里と美幸が覚えている筈だ!後は勝手にやれ。一週間後又ここに来てやる。じゃぁな、皆仲良くやれよ。じゃねぇと死ぬ程辛いかんな。って言うか死ぬんじゃねぇぞ」

「皆頑張りなよ。何、一週間なんてすぐさ。何か緊急事態があったらすぐに無線を使うんだよ。じゃあね」

 二人はそれぞれの言葉を残しジープで引き返して行ってしまう。

 姑くの間皆固まってしまっていたのだが、エンジン音も聞こえなくなり束の間の静寂が戻って来る。

「美幸〜、一体どう言う事なのか説明してもらおうか……」

「だってさ、オイラ達が山ごもりするって言ったら優ちゃん来たいって言うんだもん。優ちゃんだけじゃ不安だからさ、明兄ぃにも出張って貰おうと……ね?」

 そう言って優の顔を見る。

「じゃぁ何で健太迄いるんだよっ!」

「はーい俺も来たかったから〜!」

 極めて元気良く返事をする健太。

「明さん、私も知らなかったんですよ。事前に知っていれば絶対反対したんですけど……。明さんが相模さんの車に乗せられて、ここに来るのは知っていましたけれど、もうすぐ始まる訓練の下準備かなって思っていたんです。まさかここに優様や健太君まで来るなんて……」

「……まったくこいつらは……」

 僕は呟きながら、さっきから気にかかっていた事を口に出す。

「美里、美幸。さっき、訓練がどうとか言っていたけど……」

「あ、ISS恒例の訓練なんです」

「梅雨が開けたらね、ここで何班かに分かれて生存訓練するんだよ。もちろん一般の社員は参加しないよ。特務の人間だけ」

「私達も既に4回経験しています。結構きついんですよ。いろんな知識がいりますし」

「でも面白いよ」

「面白いだけで特務の人間だけ参加のイベントに引っ張り出すなぁっ!」

 お気楽に言っている美幸を尻目に僕は目の前の小さな小屋に視線を移す。

「で?あの小屋の中には何があるんだい?」

「何も無いよ」

「あの中にあるのは薄い毛布が五枚とお鍋が一個だけですよ。後は特務標準のサバイバルキット。その他は自分で工夫するんです」

 僕は深い溜息をつきながら小屋の中に入ってみた。そこには本当に何も無い、ただ真ん中に囲炉裏があるのみ。確かに、全く何も無いよりはましかも知れない。でも、これは……。

 僕が小屋の中で呆然としていると、後ろから美幸がよって来た。

「明兄ぃ、もうお昼を過ぎているから食料と水の確保しておいた方がいいと思うよ」

「あ、あぁそうだよな」

 こうなっては仕方がない、もうやけくそだ。この連休立派にサバイバルしてやろうじゃないか。とにかくここらの地形を知らないとどうしようもないな。

「さ、食料を探しに行こう。美里、美幸水源の場所と大体の地理を案内してくれよ」

「おっけい、ここから少しのぼって行った所に渓流があるからそこで水は確保出来るよ。ヤマメとかもいるから食料も大丈夫。あ、でもあまり山の奥に行かないでね。熊いるから」

「なっなにぃ!」

「いるんですよ、ここ。ツキノワグマですけどね。でも、大きい音出してたら寄って来ませんよ」

 堪らんなぁ……全く……。

 僕達は小屋を後にして山の中の探索に移った。

 そして、月明かりさえ無い真の闇の中小屋の前に焚き火をくべ、熊の襲撃に備えた僕達はあまり確保出来なかった食料を分け合っていた。

「草と茸だけって美味しく無いね」

「今日は時間が無かったですからね、明日はお魚を取りに行きましょう」

「オイラ、さっきウサギを見つけたから罠を作っておくよ」

「え?ウサギを食べるの?なんか可哀想だよ。それは止めようよ、兄貴」

「結構美味しいんだよ。それに肉も食べないと力が出ないよ。こういう時は可哀想だ、なんて言っていたらオイラ達が死んじゃうんだ。だからウサギには申し訳ないけど僕達の御飯になって貰うんだ」

 テレビも何もない文明から切り離された生活……。皆は話す事でその物足りなさを埋めていた。

「お兄ちゃん、ちょっと付き合ってよ」

「ん?なんだい?優」

「おしっこ。何か恐いんだもん」

 僕は囲炉裏から燃えさしの薪を一本取って松明替わりにし、闇の中に二人出て行った。

勢いの衰えた焚き火に新しく薪を足し、少し離れた場所で二人で用をたす。優はこの闇が余程恐いのか飛沫がかかりそうな位近寄っている。

「お兄ちゃん、こんな暗いのによく平気だよね」

「ん−、別に恐くは無いなぁ。アメリカにいた時は一人で砂漠に置いて行かれた事があるからね。あの時に較べれば、なんて事は無いよ、すぐ横に優もいるしね」

「えへへへ、そう?」

 少し照れ笑いをしている優の声がなんとも可愛く聞こえる。

 僕達はすぐには小屋に戻らず、焚き火の前に座って暖を取りながら取留めの無い話をしていた。

 暫くして優が僕に寄り掛かって来たかと思うと耳許からスースーと優の寝息が聞こえていた。馴れない場所に来て馴れない事をやった物だから疲れたのだろう。

 僕は優の事を起こさない様に抱きかかえ、小屋に戻る。小屋の中でも3人は既に横たわり、毛布をかけ寝付いていた。

「こうして寝顔をみている限りはみんな子供なんだよなぁ……」

 一人呟き、特に寝相の悪い美幸の毛布をかけ直して再び外に出る。焚き火をたき続けなければならないし、火の粉が周りに引火したら大変だから。

 どの位の時間が経ったのだろう。背後から何かを掛けられた感触で目が醒めた。僕も揺らめく炎を見ているうちにうっかり寝てしまったらしい。

「明さん。こんな所で寝てしまったら風邪をひいてしまいますよ。私が替わりますからどうぞ小屋に行って眠って下さい」

「ありがとう、美里。悪いけどそうさせてもらうよ。でもお前もあまり無理するなよ」

「判ってます。ある程度の時間が経ったら美幸を叩き起こしますから」

 美里はそう言って軽く微笑む。

「今何時位なんだろうな……」

 僕が目を擦りながら美里に聞くが、返って来たのは判りませんと言う予想通りの返事だった。

「ここに着いた時点で時間の確認出来る物は全て没収されてしまいましたからね」

「だよなぁ……。しょうがないか……日が明けたら起こしてくれよ。じゃ、お休み」

 僕は大欠伸をしながら小屋に入り、優の横に寝転がった。そしていくらもしないうちに意識は闇の中へ埋没して行った。

 次の日、僕達は朝から食料の確保をする為に行動した。美幸は宣言した通り手近な場所に罠を仕掛けに行く、それには健太がついて行った。僕は優と美里を連れて小屋から十分程行った所にある渓谷に魚を取りに行く。

 川の水はまだまだ冷たく、五分と足をつけては居られない。取りあえず水温で奪われた体温を回復させる為の焚き火をおこす。その間に美里は何かを用意していた。

 不用意に川に入って足を滑らせ全身びしょ濡れになっている優を温まらせている間に僕は美里に呼ばれた。

「明さ〜ん。ちょっとこっちを手伝って下さ〜い」

 美里は少し深くなっている場所の下流に石を積み上げちょっとした堰を作っていた。

「すいません。この少し大きな石を持って行きたいんですけど、足場が悪くて力が入らないんです」

 ざっと見ただけでも10キロ以上ありそうな大石を四苦八苦して持ち上げようとしている。僕は反対側から手伝い、それを二人で持ち上げる。

「ありがとうございます。これは岸に持って行きますんで」

「なんに使うんだ?こんな石」

「これで魚を捕まえるんですよ」

 ???

「暫く休んでていいですよ。今からちょっと工作しないとなりませんから」

 そう言って、美里は河原を離れ何か別の材料を探しに行く為に山の中に入って行ってしまった。取りあえずやる事が何も無いので未だにぶるぶる震えている優の側に行く。

「全く、おっちょこちょいなんだから優は。ほら、濡れたままの服来てたって風邪ひくだけだよ、脱いで乾かしな。その間僕の上着を羽織ってていいから」

 そう言うとまだ濡れている優の服を全部脱がしてやり、僕のシャツを羽織らせる。ここは日当たりがいいのですぐに乾くだろう。

「わ〜お兄ちゃんのシャツ久し振りに着るな。お兄ちゃんの匂いがするよ」

 優は僕のシャツの胸元の生地を鼻に寄せてクンクン匂いを嗅いでいる。

 最初は玉石に直に座っていた優だが少しもしないうちに胡座をかいて座っている僕の上に座って来た。

「何だよ、優」

「だってお尻が石ころで痛いんだもん」

 確かに玉石とはいえ小さい物もあるので下半身が無防備な優には辛いかも知れない。優は僕に完全に身体を預けリラックスしている。

「どうした?」

 僕は優の髪の毛を梳きながら話し掛ける。

「こんなのもいいよね」

「騙されたんじゃなきゃな…….」

「あは、まだ言ってる」

 気温は低いものの焚き火と日当たりの良さの為、少し重いけど何となく縁側で猫を抱きながら居眠りしている婆さんの心境になって来る。

「お待たせしました」

 そこに少し太めの木の枝と蔓草を担いだ美里が戻って来た。

「それで何をするつもり?」

 僕も不思議だったが優もかなり不思議だったらしく美里の真意を聞いている。

「これでお魚を取るんですよ、優様」

「どうやって?」

「明さんガチンコ漁って知ってます?」

「聞いた事はあるけど?」

「これとさっきの石でハンマーを作るんです。それであそこの大岩に叩き付けると、その衝撃で魚が脳震とうおこして浮かび上がるんです。その間に捕まえるって訳です」

 なるほどね……、確かに釣ったりするよりは効率いいよな。

「本当は禁止されているんですけどね、根こそぎとる訳じゃ無いからいいでしょう」

 そう言いながら美里は器用にハンマーを作って行く、でも、持ち手が二つあるのは……。

「明さん、ハンマーを叩きつける時に手伝って下さいね。私一人だとあまり勢い良く叩きつけられませんから。優様はあそこの堰の辺りで浮き上がったお魚をとって下さい」

 なるほどね。

 そして石を挟み込む様に柄のある変型ハンマーが出来上がり、三人はそれぞれ所定の位置につく。大岩のふちから水面を覗くと……いるな……僕達はハンマーを大きく振りかぶると岩の横面に思いきり振り降ろす。

 ガツン!

 腕迄痺れが突き上がって来た。ハンマーを落とさないよう我慢して水面を凝視する。

 浮かんで来ないなぁ。失敗か?

 すると下流に控えていた優が歓声をあげる。

「お兄ちゃんいっぱい流れて来たよ!」

「優様!十匹位でいいですから大きいのだけ河原の方に投げていって下さい!そんなに長くは気絶してませんから!」

 優は喜びながら魚を放り投げていた。

 その日は美幸達も結構な成績を納めたようで、肉と魚の両方にありつく事が出来たのだった。あまった肉と魚は美幸達が器用に薫製にして取って置ける様にしていた。さすがに馴れているだけの事はある。

 そして四日が過ぎ……この生活にも慣れが出て来た頃、僕は優に誘い出された。曰く素敵な場所を見つけたから一緒に来て、と。

 もう、小屋から30分も上に行っただろうか、いつの間にこんな所迄来ていたんだ?などと思いつつ僕は優の後をついていく。

 不意に森が開け、広場のような場所に出る。そこからは下の風景が一望出来た。本当に遠くだが微かに街らしきものも見える。

「どぉ?いい景色でしょ〜」

「あぁ、こんな場所良く見つけたな」

 僕は眼下に広がる風景に少し感動を覚えながら優に目を向ける。そして、目の前の萌葱色の絨毯に腰を落ちつける。

「ねぇ?お兄ちゃん……」

 優は久し振りに聞く甘え声を出しながら僕の後ろに来てもたれ掛かって来た。この声を出す時は決まって何かを要求される。

「なんだい?」

「ここには今、二人しか居ないんだよ?」

「いないな…….」

 そろそろおねだりされるんじゃ無いかとおおかたの予想はついてはいたが……。

「だから……ね?」

 優はいつの間にか前に来て、僕の目の前に顔を寄せ、僕の目をじっと見つめている。

「ここに来てからさ、お兄ちゃんお休みのキスも、おはようのキスもしてくんないからさ。我慢してたんだよ?」

 皆がいるのにそんな真似出来るかいっ。そう思いつつ優のほっぺたを両手で挟む。

「優はエッチだな」

「だっ……ん……」

 僕は文句を言おうとした優の口をキスで塞いだ。

 そして僕達二人は一面に広がる柔らかい草のベッドに生まれたままの姿になり、お互いの身体を抱き締める。

「お兄ちゃんの汗の匂いがする……」

 僕の胸に顔を埋めながら優が言った。いくら毎日水で身体を拭いたって、石鹸も無いこの環境じゃ汚れを落とすのにも限度がある。

「臭うかい?」

 僕が少し気になって優に聞くと優はにこっと笑って首を振る。

「ううん、お兄ちゃんの匂いは大好きだよ。石鹸の匂いがするお兄ちゃんも好きだけど、こういうお兄ちゃんも男らしくて好き」

 そんないじらしい事を言ってくれる優が愛おしくて僕は優の事を再びぎゅっと抱き締め横たわる。

 優の体臭の他に若草の香りが僕の鼻孔をくすぐる。僕は優と再び口付けを交わし、舌を絡める。優は余程不満が溜っていたらしく、いつ迄経ってもキスを止めようとしない。僕は半ば強引に優の事を引き離す。

「そんなにして欲しかったのかい?」

「だって……」

「はいはい、判ったよ」

 優の言わんとしている事は判るのでもう一度軽くキスをしてやる。そして僕は優の事を膝立ちにさせ、横たわっている僕の顔の上を跨がせた。

 優の身体が逆光で黒く浮かび上がる。それが実に綺麗で思わず感嘆してしまう。

「うん、いい身体している」

 僕は両手を双丘に廻し、優の腰を落とさせる。そして少し寒いのか縮んでしまい、まるで蟷螂の卵みたいになっている優の袋を口に含む。暫く舌でアーモンドの様な塊を優しく刺激してやると、今迄鼻先に当たっていた優の先端が徐々に離れ、上を向いて来る。

 僕は一旦口を離して袋から徐々に舌を這わせ、狙いを優の窄まりに変更する。その間にも優はどんどんと息遣いが荒くなって来る。そして優の窄まりに舌が辿り着いた時優は心配そうな声をあげた。

「お兄ちゃ……、ボクのそこ、臭く無い?」

 どうやら風呂に入っていない事が大分と気に掛かっている様だ。だが優のそこはそれほど臭っては来なかった。恐らく用をたした後葉っぱだけでは気持ち悪いと川にお尻を洗いに行っていたからだろう。

「平気だよ、優。全然臭わない」

 確かに風呂に入っていない分多少は臭う。しかし、愛しい子の身体だ、何を躊躇う事があるだろう。僕は遠慮無く舌を這わし優に快感を与えてやる。

「ひゃんっ……、おにい……やぁっ」

 久し振りに聞く優の喘ぎ声に僕の物も反応し硬くなって来る。

「お兄ちゃんのも硬くなって来た……」

 それに気付いた優は身体を反転させ、僕の屹立に舌を這わせる。

「んっ……はぁっ……。お兄ちゃんの味がする……」

 ぴちゃぷちゃと互いの屹立を口に含みながら刺激しあっているうちにほぼ同時に絶頂に達してしまう。

「お兄ちゃんも溜ってたんだね……凄くいっぱい出たよ、びっくりしちゃった」

 少し口の端から溢れてしまった僕の白濁を指で救い取りそれを口に含む優。

「優もだよ。さ、挿入てあげる」

 反対に僕は優の放ったものを手のひらに吐き出し、未だに萎えない己の屹立に塗り付ける。そしてずっと指で刺激し続けてすっかり柔らかくなっている優の窄まりに己の屹立をあてがい、一気に挿入する。

 優のそこは少しの抵抗の後根元迄僕の物を飲み込んでしまう。

「動くよ……」

「うん……いいよ」

 僕はゆっくりと腰を動かし始めながら優自身や胸の小さい突起も刺激してやる。

「おっ……お兄ちゃんそんな……いっぱい弄らないでぇ……」

「だって、優はこういう事すると凄く可愛い声出すからさ……」

「やだっ……恥ずかしいよぉ……そんな事言わないでよぉ」

 僕は、既に回復して大きくなっている優のそこをしごきながら先端の敏感な部分を人さし指で刺激してやる。

「や……あん……そんな事しないでよぅ……」

「折角可愛い声聞いてたのに……じゃ止めるよ」

 そう言って僕は攻めたてていた手を離し、腰の動き迄停めてしまう。

「あっ……やだぁ……止めないでよぉ……お兄ちゃんの意地悪」

「止めてって言ったのは優だろ?どうして欲しいの?」

 僕は優の耳許で囁きながら胸からお腹の辺りを触れるか触れないかのタッチでツツーッと指先を動かす。すると優は半べそをかいた様な声で僕に懇願して来る。

「ごめんなさいぃ、お願いだから途中で止めないでよぉ」

「何を続けて欲しいのかちゃんと言ってごらん」

 僕は優の弱点を攻め続けながら言う。

「ひっ……や……明お兄ちゃん……お……願いします。ボクの中には……いっている……ん……お兄ちゃ……んのを動かしてく……ださい……それ……と僕の身体をいっ……ぱい弄……って下さい……」

 僕のタッチに過敏に反応しながらやっとの事で言い終える。その間にも優の腰は自然に動き始めていた。

「良く出来ました」

 そう言って、僕は再び腰を動かし始める。

「いっ……おにいちゃ……あんっ」

 僕は優の言葉通り優の全身をくまなく愛してやる。

「お兄ちゃんボク……ボク……もぉ……」

 その言葉が終わるか終わらないかのうちに優は絶頂を迎えてしまった。僕もその後に優の中に白濁を注ぎ込む。

 優と僕は陽の光の心地良さに横になり抱き合っているうちに眠り込んでしまっていたらしい。肌寒さに目を醒ますといつの間にか太陽は消え、一面に真っ黒い雲が空を覆っていた。

「優、起きよう。なんか雨が降って来そうだよ」

 優もブルッと身体を震わせた後に飛び起きる。

「本当だ…….」

 二人は急いで服を着る。……が、結局間に合わない。全部の服を着る前に大粒の雨が僕達を襲った。

 ザァァァァァァァ……

 僕達は小屋に戻るべく急いだが、鬱蒼と生い茂る木々で既に暗くなった山道は足元が滑る上に明かりが無いので歩く事もままならない。

「お兄ちゃん、あそこに洞穴みたいのがあるよ、ちょっと雨宿りして行こうよ」

 本当は美里達が心配するから早く帰るべきなのだろうが、この状態では仕方ない。僕達はその洞穴に一旦避難した。

「ひゃぁ、凄い雨だよねぇ」

 優はシャツの裾を絞りながら外を見る。取りあえず一旦全部の服を脱ぎ、雨を吸いまくった衣服を絞り、ある程度水気を抜く。

 二人は雨が当たらない所に腰を落ち着かせ雨がやむのを待った。だが暫く待ってもいっこうに雨がやむ気配は無い。

「……やまないね……」

「そうだな……」

「お兄ちゃん、寒くない?」

 確かに、濡れた服を着ているのだから寒くなって来て当然だ。僕は用心の為に持って来たキットの中から防水マッチと包帯を取り出して火をつける。入り口付近は去年からあるのだろう枯れ葉が吹き溜まりに積っていた為にちょっとした暖を取る事が出来た。

 二人がぼおっとしながら雨音を聞いていると奥の方から何かの気配を感じた。二人はハッとして奥の方を凝視する。

 はたして奥の暗がりから出て来たのは柴犬程の大きさの2頭の子熊達だった。

「わ−!可愛い!」

 優は始めて見る子熊の愛らしさにすっかり魅了されている。最初は焚き火に警戒していた子熊も幼さ故の好奇心に打ち勝てずにおいでおいでをしている優の方へ近付いて優の手のひらをぺろぺろと嘗め始めていた。

「お兄ちゃん、何か餌無いの?」

「無い事は無いけど……」

 僕は何か心の片隅に引っ掛かる物を感じながら、小屋を出て来る時に美里から貰った少しばかりの薫製肉を優に差し出した。

 優は交互に薫製肉を分け与える。しかし、ほんの少ししか無い為にすぐに食べ尽くしてしまう。もっとくれとばかりに優に寄っている子熊を可愛い、可愛いと撫でている。

 焚き火の温かさに座り込んで微睡んでいる子熊を撫でている優を感じながら僕は外の様子を伺う。既に外は真っ暗で景色を見る事は出来ない。

「お兄ちゃん、この子達可愛いよねぇ」

「まあね、子供ってのはそれが武器みたいなもんだからね」

「そっかぁ、じゃ、ボクも可愛いんだよね」

「何言ってるんだか……」

「可愛くない?」

「はいはい、優は可愛いよ」

「あ、凄い投げやりだ!」

「ごめん、ごめん。悪かったよ」

 本当にこの子はコロコロと顔つきが変わるな……と、プゥッと膨れている優をなだめつつ優の表情の豊かさを再認識する。

「ねぇお兄ちゃん」

「なに?」

 子猫を扱う様に髪の毛を撫でていた為に少し気減の良くなった優はすっかり寝込んでいる二頭を見ながら話す。

「この子達の親はどこに行っちゃったのかな?」

「え?どっかに餌を探しに行って……」

 そこで僕ははたと思い付く。……そうだここには母熊が居ないじゃないか、もしこいつ等が孤児ならいいが、そんな事はまず無いだろう……って事はこの洞穴はこいつ等の住処……侵入者は僕等だ。ここにもしも親が帰って来たら……。僕は子供を守る為に怒り狂って襲いかかる母熊の姿を思い浮かべる。その途端ドッと冷や汗が流れ出た。

「優、急いでここを出よう」

 自分でも声が震えるのがわかる。

「どしたの?急に出ようなんて。まだ雨が降っているし外はもう真っ暗だよ。もう少しここに居ようよ」

 今の状態がどれだけ危ういのかを理解していない優は実にのんびりとしている。

「いや、駄目だ!早く出ないと!ここは危険なんだ!」

 僕はつのる危機感につい声を荒げてしまう。その声を聞いた子熊達が何かあったの?とでも言う様に眠りから醒め、優の側に寄って行く。僕はそんな事も気にとめず明かりのある内にキットの中から何か武器になりそうな物を探す。

 しかし、その中にあるのは小ぶりのナイフと薬、それと発煙筒とマッチ……取りあえず熊相手に有効な武器になりそうな物は全く入っていなかった。

 取り合えず無いよりはましとナイフをポケットに入れ焚き火を消し、ザァザァと降りしきる雨の中、優の手をひいて外に出る。

 そして数歩も歩まないうちにタイミングが既に遅かった事を思い知った。暗がりの中からがさがさと物音が聞こえる、それはほぼ確実に母熊の物だろう、タイミングから察するに入り口付近の焚き火を警戒していた様に思える。その焚き火が消えた事で巣穴に戻る決心がついたのだろう。

「いいかい、僕の手を絶対離すな」

 僕は優の手をしっかりと握り、彼女を刺激しない様にゆっくりと反対側へ逃げる。

 が、それは通用しなかった。

 ごうとばかりに一声吠えた彼女はこちらに確実に歩を進めている。僕達は脱兎のごとく暗い山道を走った。ぬかるんだ地面や張り出した木の根につまづきながらも僕達は彼女の追撃を躱そうとする。しかし、地の利はあちらの方が断然有利だ。その差はどんどんと縮まって行く。

 どうする、何かいい手は無いか……逃げながら必死に考える。

 ナイフ……ダメだ、こんな小さいのじゃかすり傷にもならない、薬……意味が無い、包帯……何をしろって言うんだ!木の枝で……そんな物が通用するとは思えない.

 焦りが余計に考えをまとまらなくしている。

「あっ!」

 僕の腕にいきなり負荷がかかる。優が何かにつまづいてこけたのだ、いきなりの衝撃に思わず僕の体勢も崩れる。

「大丈夫かい、優」

「ちょっと捻ったかな……」

 もう逃げ切るのも限界だ、僕は優を後ろ手にかばい熊と対峙する。暗がりに目が馴れた為におぼろげではあるが熊の動きが見える様になった。

 熊はこちらが立ち止まった事で多少警戒しているのかなかなか近寄っては来ない。しかし、一旦背を向けたら絶対に襲って来るだろう。僕は優に荷物を預け、逃げる様に指示をする。

「お兄ちゃんはどうするの?まさか戦うなんて言わないよね?」

 僕に較べてあまり息のあがって無い優は既に僕の思っている事を看破していた。

「やだ、戦うんならボクも戦う。でも、あの子達が可哀想だよ、なんとか逃げるか追い払えないかな……」

「それを考えているんだけどいい案が浮かばない。それに足捻ったんだろ?戦うなんて無茶だ」

「この荷物の中に何か武器になりそうな物って無いの?拳銃とかさ、威嚇するだけでもいいじゃん」

 そんなもんあるかい。物騒な考えするなぁ。

「無い、そんなもん。あるのは薬と僕が持ってるナイフと発煙筒位だ」

 優は暫く何かを考えてから荷物の中を漁り出す。

「何をするんだ?」

「ん?うまく行けば熊さんにお帰りしてもらえるかなって思って」

 シュッ

 背後で何か音がしたと同時に僕の周りが明るくなり、濛々たる煙に囲まれる。

「何のつもりだい?発煙筒なんて焚いて」

「え、普通動物って火を怖がるでしょ。煙も嫌がるかなって」

 発煙筒の発する光に浮かんだ熊には火薬の燃える音と煙の匂いがかなり嫌らしく、明らかに逃げ腰になってきている。僕は発煙筒を優から受け取り暫く様子を伺う。

 熊が後退するのとほぼ同時に僕達もゆっくり熊と対峙したまま後退する。そして5m程後退した時に突如優が悲鳴をあげた。

「どうした!」

 僕が咄嗟に後ろを振り向くと優の姿が見当たらない。

「助けて!」

 優の声の発する方を見ると地面に張り出した木の根を片手で辛うじて掴んだ優の手があった。

 どうやら、この雨で土砂崩れがあったらしく、道が寸断されていた。優はそこを踏み外したらしい。

「優っ!」

 発煙筒を放り投げ、優の手を掴む。しかし泥で滑ってしまい、上手く力を入れられない。僕は地面に這いつくばって両手で優の腕を掴み直す。そして体勢を整えながら優の事を上に引っ張る。優もなんとか上にあがろうとして足を引っ掛けようとしているらしいのだが、かなり地盤が脆くなっているらしくガラガラと土塊が落ちる音だけが聞こえて来る。

「優、じっとしてて。あまり揺れると引き上げられないよ」

「ごめん、お兄ちゃん。でも恐いんだ、どんどん壁があっちに行くような感じがして」

 数分の格闘の末なんとか優を引き上げる事に成功した。どうやらたいした怪我はしていない様だ。ほんの一時の安堵の後、僕は背後にいる筈の熊の存在を思い出す。

「そうだ!熊!」

 そう言って後ろにバッと振り向いた瞬間。僕の下の地面が消失した。

「わわっ!」

「お兄ちゃん!」

 手近にあった木の幹に咄嗟にしがみつこうとするが、間に合わない。と言うよりその木も一緒に崩れてきた。僕は受け身を取れないまま大量の土砂と一緒に恐怖の滑り台を味わう事になった。長い一瞬の後、上から優の心配そうな声が聞こえて来る。

「お兄ちゃ〜ん、大丈夫〜?」

「なんとか生きてるよ。でも自力じゃここから上がれない。なんとか美里達の所に行って助けを呼んでくれないか?」

「わかったよ!少し時間がかかるかもしんないけど絶対に助けに来るよ!」

「熊に気をつけろ!」

「うん!」

 どうしても自分の事より、優の方が気にかかってしまう。優が発煙筒を拾って移動し始めたのだろう、明かりが見えなくなる。随分と長く持つ発煙筒だなぁ。そんな事を思いながら、自分の置かれた状況を把握する事に努める。

 どうやら身体の半分以上は土砂に埋まってしまったらしい。落下と言うよりも滑り落ちたのも不幸中の幸いだろう。取りあえず息は出来るが、身体を起こす事が出来ない。腕に力を込めて起きようとしてもグズグズになった土砂に埋まってしまうだけなのだ。

 僕はこれ以上土砂崩れが起きない様に祈る他手は無かった。

 どの位時間が経ったのだろう、今迄降っていた雨が段々と小降りになってきた。体温を奪われ自由のきかなくなった身体と時折遠のきかける意識に喝を入れながら優達の救援を心待ちにする。

 更に時間が経ち、完全に雨がやんで、物を考える事さえ億劫になった頃頭上から明かりが射し込んだ。

「お兄ちゃん!助けに来たよ!」

「明さ〜ん!大丈夫ですかぁ!」

「明兄ぃ!今助けてあげるよぉ!」

「師匠!怪我とか無いですかぁ!」

 四人が口々に言葉を投げかける。そっか、優は無事に小屋につけたんだ。僕の胸の内に安堵が広がる。そしていくらもしない内に僕の顔にロープが当たった。

「明兄ぃ!そのロープの輪っかにに身体を括りつけて!引き上げるから!」

 僕はあちこちが痛む身体に喝を入れつつなんとか胴回りにロープを結び付けた。

「いいですか!引き上げますから、なんとか埋まってる部分を抜いて下さい!」

 美里の言葉と同時にロープがビンと張って上体が上に持ち上げられる、しかしそこ迄で一旦動きが停まる。原因は判っている、僕の下半身が埋まっている為に予想以上の負荷がかかっているのだ。上からは引っ切り無しに「せーの!」と言う声が聞こえている。僕も一生懸命足を引き抜こうともがいてみる。

 そのかいあって、徐々にではあるが身体が上に釣り上げられる。そして完全に身体が露出し引き上げの速度も多少早くなる。

 だが、神様ってのは相当僕に意地悪をしたい様だ。ロープで擦られた為か土塊が僕の頭に当たり始める。そして頭上からガラガラっと音がした瞬間に僕の身体が後ろに振られる。

「危ないっ!避けてっ!」

 美幸の叫び声が聞こえる。避けられる訳無いだろっ!そう思いながらも両手を頭の上に持って行く。そこにゴズッという鈍い音と衝撃、そして両手に灼熱感を感じたまま僕の意識は闇に落ちた。

 眼が覚めると僕は何故かベッドに寝かされていた。頭がズキズキと痛む。思わず手を持って行こうとすると両手は固定されて動かない。

 何故、僕はこんな所にいるんだろう。家に帰らないと……。そう思って身体を起こすと入り口から一人の少年が入って来た。

「あぁっ明兄ぃ!まだ動いちゃ駄目だよ!」

 どうやらこの子は僕の事を知っているらしい。

「ねぇ、君。ここは一体どこなんだい?」

「へ?何言ってんの?ここは優ちゃん所の病院じゃない」

「優ちゃん?優ちゃんって?」

 この少年にもその優ちゃんって人の事も僕には全く心当たりが無かった。

「またまた〜冗談きついんだから〜明兄ぃってば〜」

 冗談なんか言ってない。大真面目に心当たりが無いんだ。僕のその真剣に心当たりを探っている表情を見てその少年は真面目な表情で僕の顔を覗き込む。

「明兄ぃ……真面目に言ってんの?」

 僕は頷く。

「もしかして、オイラの事もわかってない?」

 再び頷く。

「なんでここにいるかはわかる……訳ないか」

 三度の頷き。少年は冗談だよね……と呟きながら部屋を出て行ってしまった。ぽつんと取り残されてしまった僕はどうすればいいのかもわからないままベッドの上にただ座っているしかなかった。



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